宇宙の忍者 ヒロ 2章 アトランティスからヒマラヤへ

 

 <第154話 2017.8.16>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

タリュウを先頭に、四匹の竜は影宇宙の中を水平に進んでいく。

「サーヤ、ロンの様子はどうだい?」

ジリュウの中にいるヒロが、ロンとともにタリュウの中にいるサーヤに問いかける。

「まだ意識は回復しないけど、大丈夫よ」

*** サーヤ、ヒロ、もうすぐケガ人用のベッドのある場所に着くよ・・・

タリュウの声が聞こえてしばらく後に、目の前に大きな竜が現れた。

 

*** サーヤ、ヒロ、こちらのベッドにロンを寝かせなさい・・・

大きな竜は、タリュウたちの母親だ。ヒロが大きな竜の口から中に入ると、病院の集中治療室のような設備があった。

「すごく良い設備がある。ケン、一緒にロンをベッドに連れて行こう」

サブリュウの口から出たケンが、ヒロと力を合わせてロンをベッドに運んで寝かせた。

「ほんとに、マリが入院していた志能備病院の集中治療室とそっくりだね。」

ミウとサーヤが顔を見合わせて言うと、マリが目を輝かせる。

「じゃあ、ロンはもうじき元気になるね」

 

集中治療室にロンとサーヤを残して、ヒロたちは母竜の体内の別の部屋に入った。その部屋の中には何もなかったが、サスケの口から声が聞こえてきた。

「アトランティスの古代人たちは、デウスの魂(たましい)からオリンポス惑星の文明を学んだ。そして、高度な文明を持った王国が繁栄したというアトランティス伝説が生まれた」

すぐに父親シュウジの声だと気づいたヒロが、とまどいながら質問する。

「デウスは、超古代のインドのブラフマーたちにも知識を与えたけど、オリンポス惑星の文明は現代の地球より進んでいたの?」

 

「それは、オリンポス惑星に行って、デウスたちに会ってみればわかることだよ」

シュウジの声を聞いて、ケンがそわそわし始める。

「それは、オリンポス惑星に行って来いってことですか?」

「そんな遠回りしてたら、ヒロとサーヤのお母さんに会うのが遅くなっちゃうよ」

ミウとマリが心配すると、サスケの口から声が聞こえた。

「大丈夫だよ、オリンポス惑星に行って帰るまでの時間を三時間以内にできるから」

 

「でも、まだロンが回復していないから、出発できません」

ミウが、集中治療室にいるサーヤとロンの方を見る。

「そうだね、この機会に、ロンが回復するまで、宇宙の構造の話をしよう」

そう言って、シュウジは話を続ける。

「では、始めるよ。この宇宙には何千億個の銀河があり、一つの銀河の中に何千億もの恒星があるって知っているね。その恒星の周りを回る惑星の数は、恒星の数より多い。その中で、地球のような高度な文明を持った惑星は何億個もある。ただ、宇宙の百三十七億年の歴史の中で、既に滅んでしまった文明や消滅した惑星も多い」

 

<第155話へ続く>

 

 <第155話 2017.8.22>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 「高度な文明を持った惑星が何億個もあるんですか?」

ケンが興奮した様子で、サスケの口元に向かって話しかけた。

「でも、地球から遠すぎて、宇宙人が地球に来たことはないって、タカハシ先生が言ってたじゃない、ケン」

ミウがケンをたしなめるように、ゆっくりと言った。

「そのとおりだね、ミウ。しかし、惑星の寿命が残り少なくなったら、その惑星に住んでいる宇宙人はどうするだろうか?」

シュウジの声が、ミウやケンに問いかけた。

 

「他の惑星に移住するために、魂(たましい)というものを作って宇宙空間を移動するって聞きました」

ケンが答えると、シュウジの声が説明を続ける。

「高度な文明を持った生命体は、その頭脳と同じ働きをする人工頭脳の集団を創ることができる。その人工頭脳集団は、自己増殖して独自に組織を拡大する人工頭脳体になる。生物集団や惑星には寿命がある。だから、高度な文明を持った生命体は、惑星の寿命が尽きる前に、重力を自在にコントロールして、宇宙空間に浮かぶ人口頭脳体を創った。それが魂(たましい)だ。惑星が滅んだ後も自己の分身である魂(たましい)が宇宙の中を調査し、安住の地を探して旅をしているんだ」

 

「オリンポス惑星の他に、慈愛の惑星や治癒の惑星も魂(たましい)を創ったんでしょう?」

マリがヒロから聞いた話を思い出して口にした。

「そうだよ、マリ。アンコクやヤミのような独裁制度の惑星も魂(たましい)を創って、どこかに自分たちの文明を残そうとしているんだよ」

シュウジの声を聞いて、ヒロが悔しい想いをあらわにする。

「アンコク惑星の魂の残忍な攻撃で、ラクシュミーや古代モヘンジョ・ダロの人たちが殺されてしまった・・・」

 

影宇宙の中で三日ほど過ぎた頃、サーヤとともにロンが集中治療室から出てきた。

「あっ、ロン、元気になったんだね。良かったあ」

最初に気づいたマリが、ロンに駆け寄っていくと、ミウ、ヒロ、ケンもロンに近づいて行った。

「みんな、心配してくれてありがとう。サーヤが治してくれたから、大丈夫だよ。ありがとう、サーヤ」

ロンがサーヤの両手を握ると、サーヤは大きくうなづいた。

 

<第156話へ続く>

 

 

 <第156話 2017.8.30>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 「じゃあ、オリンポス惑星に向かって出発しようか」

ケンが、ヒロやミウの反応を見るように、控えめな口調で言った。

「おっ、すごいな。オリンポス惑星って、高度な文明が発達していた惑星だよね」

ロンが目を輝かせる。

*** ヒロ、サーヤ、サスケ、おいらの中に入れよ・・・

最初にタリュウが口を大きく開けた。

*** ミウ、マリ、ヒショウ、オリンポス惑星は遠いよ・・・

ジリュウが口を開けると、サブリュウ、シリュウも続いて口を開けた。

*** ケン、コタロウ、ハンゾウ、数億年も過去にさかのぼる旅だぞ・・・

*** ロン、カゲマル、数万光年も離れたところに行くんだよ・・・

 

オリンポス惑星に高度な文明が栄えていたのは、ほぼ六億年も昔のことだ。この宇宙の時間を六億年もさかのぼるには、影宇宙の中をどれだけ上昇し続ければいいのだろう。

「デウスに会うためには、影宇宙の中で何ヶ月上昇しなければならないのかな?」

ケンが不安な声を出すと、サブリュウが答える。

*** そんなに長い時間は必要ないよ。おいらたちは改造されて、超高速で上昇できるようになったんだ・・・

 

「オリンポス惑星までの距離は数万光年もあるんでしょう?」

サーヤが父親に問いかけると、サスケの口からシュウジの声が聞こえる。

「太陽は、銀河系の中心から約三万光年離れた位置にあって、約二億年かけて銀河の中を一周している。影宇宙の中で数億年さかのぼっている間に、オリンポス惑星が近づいてくるから、自分で遠くまで移動する必要はないよ」

 

四匹の竜たちが、影宇宙の中を超高速で上昇している。出発した時に数万光年離れていたオリンポス惑星の六億年前の位置に向かって、水平方向にも移動している。四匹の竜たちは、シュウジによって遠隔操縦されている。

「影宇宙の中って、遠くに星が見えるだけで、まわりは真っ暗だね」

ジリュウの中にいるマリが、退屈な気持ちをミウに伝えた。

「そうだけど、出発してからまだ五時間だよ。もう少し我慢しようよ」

ミウが語りかけると、後ろを向いていたマリが振り返って声をあげた。

「あっ、地球みたいな星が見える。ほら、見えるでしょ、ミウ」

 

<第157話へ続く>

 

 

 <第157話 2017.9.6>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

「ジリュウ、あの星に行って。ねえ、ヒロ、あの星で休憩しようよ」

タリュウの中にいるヒロに向かって、マリが訴えかける。

「マリはもっと我慢できると思っていたけど、無理だったか」

「あの星が、どれだけ地球に似ているか調べてみようよ」

ヒロとケンがほとんど同時に反応した。

 

「地球に似た惑星でも酸素があるとは限らないから、宇宙服を来て行きなさい」

遠くからシュウジの声が聞こえると、ヒロの体が透明の宇宙服で包まれた。

「これは透明で軽い宇宙服だ。映画で見たものより、ずっとカッコイイや」

ヒロが喜んでいると、サーヤ、ケン、ミウ、マリ、ロンも透明の宇宙服に包まれた。

「宇宙服の背中の部分が、酸素ボンベになっているみたいね」

ジリュウの中にいるミウが、マリの宇宙服の背中を触って言った。

 

地球に似た惑星は雲に覆われている。雲の下の地表に近づくと、岩山と湖がいくつも見える。最初にサブリュウの口から、ケンが出てきた。湖の近くに降り立つと、強い風に体を押される。

「おーい、すごーく風が強くて、寒いぞー」

ヒロ、サーヤ、ミウ、マリ、ロンの順に湖の近くに降り立ったが、強い風に吹き飛ばされないように、みんなで手をつないで輪になった。

 

「誰が、地球に似ているなんて言ったんだい?」

ヒロがからかうと、マリはロンの後ろに隠れて言った。

「影宇宙から見たら、雲が見えたから、地球に似ているって思ったのよ」

「休憩するなら、きれいな湖のほとりがいいよね。でもここは寒すぎる気がしない?」

ミウがそう言うと、ヒロ、サーヤ、ケンが笑う。

 

「あの岩山、富士山より高いんじゃないの?あれ、頂上から煙が出ているよ」

後ろの山を見上げて、ロンが言うと、ヒロが顔色を変える。

「あれは火山だ。変な音が聞こえる。爆発して噴石が飛んでくるかもしれないから、岩陰に隠れよう」

ゴーッという音が大きくなり、地面がぐらぐらと揺れ始めた。

「きゃーっ、あぶなーい」

まっ先に、マリが大きな岩の陰に向かって走る。ミウとサーヤも続いて走った。

「あっ、岩が降ってくる、サーヤ、危ないっ」

とっさに、ケンがサーヤの手を引っ張った。

  

<第158話へ続く>

 

 

 <第158話 2017.9.15>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

間一髪だった。降ってきた岩は、サーヤのすぐ横に落ちた。

「ありがとう、ケン。助かったよ」

サーヤがケンの手を握り返した。その横をヒロとロンが、岩陰に向かって走っていく。

「もっと急げー、いっぱい岩が降ってきたぞー」

ヒロが叫んだ。その直後、サーヤを守ろうとしたケンの後頭部に大きな岩が当たった。

「あっ、ケンが・・・」

声を上げる間もなく倒れたケンを見て、サーヤが息を飲んだ。

 

後ろを振り返ったヒロとロンが、慌てて戻って来る。

「急いで、ケンをあの岩陰まで運ぼう」

ヒロとロンが大柄なケンを全力で運ぶ。すぐ近くにいくつも岩が降ってくる。

「あっ、ヒロ、右に逃げて」

ミウが上を見て、降ってくる岩を避ける方向をヒロたちに伝える。

 

「あー、なんとか安全な場所に着いた」

ケガが回復したばかりのロンが、肩で息をしている。

「ごめんなさい、ケン・・・この惑星で休憩しようって、わたしが言ったから・・・」

マリが泣きながら、ケンの肩をさすっているが、マリの左腕から血が出ている。

「あっ、マリもケガしているじゃないの。でも、今の痛みを我慢すれば、じきに治るよ」

サーヤが、マリの左腕を両手で触って優しく言った。

 

「とにかく、すぐに来てくれ、タリュウ」

ヒロが呼びかけると、四匹の竜が顔を出した。

気を失ったケンと一緒にサーヤとマリが、タリュウの口の中に吸い込まれた。ケンはタリュウの中で、浮いたままベッドに移動した。

ミウとカゲマルはジリュウに、ヒロ、サスケ、ハンゾウはサブリュウに、そしてロン、コタロウ、ヒショウはシリュウの中に吸い込まれた。

 

タリュウの中で、サーヤはケンの宇宙服を脱がせて、ケガの状態を調べた。

「宇宙服がケンの頭を守ってくれたけど、首の骨と神経が傷んでいる・・・」

サーヤがつぶやくと、マリがまた涙を浮かべる。

「サーヤが一緒にいるから、ケンは大丈夫だよ、マリ」

サブリュウの中にいるヒロが、タリュウの中にいるマリに声をかけた。

  

<第159話へ続く>

 

 

 <第159話 2017.9.21>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 「タリュウの中には簡易ベッドしかないけど、ケンの治療はできるの、サーヤ?」

ジリュウの中にいるミウが、タリュウの中のサーヤにたずねると、サーヤが答える。

「傷んでいるケンの首の骨と神経に、わたしの治癒の力を当て続ければ、数日で治るはずよ」

「あー、よかった。ケンはじきに元気になるね。あっそうだ、マリもケガしてるんだから、横になって眠っていた方がいいよ。」

ジリュウの中のミウが、タリュウの中のマリに語りかけた。

「どうして? ケンのことが心配だから眠れないよ」

マリが聞き返すと、ミウが楽しそうに答える。

「ケンは、サーヤのことが好きだから、サーヤの夢を見ながら眠っているかもしれないよ」

 

「そうなのか・・・そう言うミウは、ヒロのことが好きなんだろう?」

シリュウの中にいるロンが、ミウをからかう。

「ロン、変なこと言わないでよ。ヒロが困っているじゃないの」

ミウとロンのやりとりを聞いて、ヒロがつぶやく。

「人が人を好きになるのは、なぜだろう。みんな友達でお互い好きなんだけど、それとは別の感情だよな」

ミウ、ロン、マリは、それぞれ答えを考えついたが、口に出すのをためらっていた。

 

四匹のリュウは、影宇宙の中を一時間くらい上昇し続けた。しばらくして、ジリュウの中にいるカゲマルが、そわそわし始めた。

「カゲマル、どうしたの?」

ミウが気づいたときには、ジリュウが他の三匹の竜たちから離れてフラフラしていた。

「ジリュウ、目を覚ましてっ」

ミウが叫んだと同時に、宇宙から強い光の衝撃波が襲ってきた。

 

「キャーッ、痛いっ」

瞬間的に吹き飛ばされたジリュウの中で、ミウが何回転もして体のあちこちをぶつけた。忍者のミウでも避けられないほど強い衝撃だった。しかし、猫のカゲマルはなんとか持ちこたえた。

「あー、手も足も痛い・・・、あれ、左手の感覚がない・・・」

ミウは次第に意識が遠くなっていった。カゲマルがミウの手や顔をなめて、元気付けようとするが、ミウは意識を失ってしまった。 

  

<第160話へ続く>

 

 

 <第160話 2017.9.23>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 強い光の衝撃波は、宇宙の中の遠い恒星が超新星爆発を起こしたことによって発生した。

「さっきからジリュウの姿が見えないけど、どこにいるんだろう?」

サブリュウの中から外を見ていたヒロが、心配し始めた。すぐにサスケの口から、父親のシュウジの声がする。

「ジリュウは影宇宙の中を上昇しているうちに眠くなって、みんなより遅れてしまったようだ」

「じゃあ、さっき遠くに見えた超新星爆発の衝撃波に襲われたかもしれない。僕たちが通り過ぎた後で、あの衝撃波がこっちに到達したはずだから」

ヒロは千里眼の力でジリュウと、その中にいるミウとカゲマルを探した。

 

「ああ、大変だ、ジリュウの中でミウが気を失っている。あれ、左腕がねじれている。骨折しているかもしれない。おーい、ミウ、しっかりしろー」

ヒロが呼びかけるが、ミウの意識は戻らない。

「サーヤ、ミウがジリュウの中でケガをしている。意識を失っているよ。どうすればいい?」

ヒロは、サーヤの治癒の力が遠く離れたミウに届くよう願った。

 

「タリュウの中の私からジリュウの中にミウに、私の治癒の力が届くかわからないけど、やってみるよ」

サーヤはミウに語りかけることで、治癒の力をミウに届けようとしたが、ミウの反応がない。

「ミウの意識が戻らないから、治癒の力が届かない。そうだ、カゲマルに手伝ってもらおう」

サーヤは、カゲマルに話しかける。

「カゲマル、治癒の力を届けるから、ミウの肩を前足でしっかり押して」

カゲマルが、ミウの左肩に前足を乗せて体重をかけた。

 

「うーん・・・、痛い」

ミウが、顔をしかめながらゆっくりと目を開けた。すぐにサーヤがミウに話しかける。

「ミウ、左手をゆっくり動かしてみて。私の治癒の力で、痛みは消えているはずよ」

「あれ、思うように動かない。右手と両足は動くけど、ちょっと痛い」

ミウは起き上がって座ることはできる。

「あー、やっぱり左腕のどこかを痛めている。今は直接触って治すことができないから、オリンポス惑星に着くまで、じっと動かないで我慢していてね」

サーヤが話しかけると、ミウは元気なくつぶやいた。

「ああ、サーヤ、ありがとう。でも、オリンポス惑星に着くまで、何日かかるの?」

  

<第161話へ続く>

 

 

 <第161話 2017.9.27>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 ヒロが千里眼の力で、オリンポス惑星を見つけようとしている。

「あれがオリンポス惑星かもしれないけど、遠すぎてよくわからないよ」

「あと三日、影宇宙の中を上昇すれば、六億年前のオリンポス惑星に到着する予定だよ」

父親のシュウジの声が、みんなに聞こえた。

「はあー、わかりました。長いけど、じっと動かないで我慢しています」

ミウは、ため息をついた。ジリュウは、タリュウたちに追いつこうと必死に上昇している。

 

「横になっても、よく眠れない・・・あと何日でオリンポス惑星に着くの?」

タリュウの中で、マリがサーヤに問いかけると、サーヤが笑顔で答える。

「マリは、よく眠っていたよ。あと何日で着くの?って、何回も寝言を言ってたよ、マリ」

「マリ、今日着くらしいよ。外を見てごらん」

半分眠ったままのマリが振り向くと、ケンが簡易ベッドの上で外を見ている。

「えっ、ホント? エーッ、ケガが治ったの、ケン?」

マリは、ケンが元気になったことに驚いて、すっかり目が覚めた。

 

影宇宙から見えるオリンポス惑星は、まだ遠くて小さい。

「ミウ、ジリュウの中からオリンポス惑星が見える?」

ヒロがサブリュウの中から、ミウの体調を気遣って声をかける。

「うん、青い惑星が見えるけど、あれがオリンポス惑星なの?」

ジリュウの中のミウが元気なく答えると、サーヤがタリュウからジリュウに移動しようとする。すると、タリュウがジリュウの尻尾をくわえて、サーヤをジリュウの中に送り込んだ。

 

「ミウ、左腕のどこが痛いの?」

サーヤが、ミウの左腕をゆっくりと肩から指先まで優しく触っていく。

「ありがとう、サーヤ。肩と肘と手首がすごく痛くて、三日間よく眠れなかったけど、サーヤが触れただけで、痛みが消えていきそうだよ」

ミウは、あらためてサーヤの治癒の力に感動した。

 

「オリンポス惑星に近づくと、オリンポスの太陽が巨大に見えるなあ。我々の太陽より大きいかもしれない」

シリュウの中のロンがつぶやくと、ヒロが応じる。

「そうだね、オリンポス惑星と太陽の距離によっては、オリンポス惑星の気温はものすごく暑いだろうね」

  

<第162話へ続く>

 

 

 <第162話 2017.10.9>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 「オリンポス惑星に到着する前に、大事なことを説明しておこう」

みんなの耳に、父親シュウジの声が聞こえる。

「この惑星は地球の約二倍の大きさで、北極と南極の周辺以外は気温がかなり高い。この惑星は一つの巨大な恒星、オリンポスの太陽の周りを回っている。オリンポス惑星の自転速度は地球の二倍なので、この惑星の一日は地球の一日より時間が短い」

 

「じゃあ、オリンポス惑星の住人の寿命は、地球人より短いの?」

ヒロが素朴な疑問を口にすると、シュウジの声が答える。

「そうとは言えない。我々の宇宙の中の光の速さは一定だから、どの惑星でも時間の進み方は同じだ。つまり、この惑星の一日が地球の一日より短くても、住人の寿命は同じくらいかもしれない。」

 

「うーん、そのことはよく分からないけど、オリンポス惑星の住人は、地球人に似ていますか?」

マリがギリシャ神話の絵を思い浮かべて質問すると、シュウジが答える。

「オリンポス惑星の住人の外見は地球人に似ているが、四本の腕を持つ人種が多い。身長は人によって二メートルから三メートルで、人種による違いが大きい。男女による身長差はないようだ。頭が大きく、長い胴から四本の腕が出ている。二本の足は太くて短い。」

 

四本の腕にはみんな驚いたが、ケンの反応は違った。

「荷物が多い時に手が足りないって思うから、四本あれば便利だなあ」

「少数派だが、腕が二本で足が四本という人種もいる。それは、胴体と足が馬のようで、胸から頭が人間のように見える。また、腕が二本、足も二本という人種は、奴隷として支配されていた時代があった。地球の古代ギリシャのようだ。しかし、奴隷時代が過ぎると、美しい人種として人気が出たんだ」

シュウジが話しているうちに、オリンポス惑星が目の前に近づいた。

 

「この惑星のどこに行けば、デウスに会えるの?」

ヒロが問いかけると、シュウジが答えた。

「過去のオリンポス惑星には多くの国があって、相互に争ったり協力したりしていたが、長年かけて一つの国になった。デウスとは一人の人物ではなく、オリンポス国の代表者(大統領のような指導者)の呼称だ。人望・人格・心身の能力に優れた複数の候補者が10年に1度の選挙によって選出されるんだ。ヒロたちがオリンポス惑星を訪問するということを、デウスだけに伝えてあるから、直接デウスの家に行きなさい」

  

<第163話へ続く>

 

 

 <第163話 2017.10.31>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 みんなの目の前に、オリンポス惑星の陸地が近づいてきた。大都市の緑地の中にある代表者公邸の真上から、四匹の竜たちが顔を出した。

*** この大きな建物がデウスの家だよ・・・

タリュウとジリュウは、デウスの家の中にケン、マリ、サーヤ、ミウ、カゲマルを送り出した。

*** デウスの家の玄関はキレイだよ・・・

サブリュウとシリュウは、ヒロ、サスケ、ハンゾウ、ロン、コタロウ、ヒショウをデウスの家の前に送り出した。

 

「あれ、ここで君たちは何をしている?」

警官たちが近づいて来る。デウス公邸を警護している警官たちは、突然目の前に現れた少年と動物たちに驚いたのだ。

「しまった、デウス以外のオリンポス人に見つかってはいけないんだ」

ヒロがとまどっていると、ロンがとっさに説明を始めようとする。

「僕たちは・・・」

 

しかし、警官の腕が四本あることに驚いたコタロウが、声をあげて逃げ出した。

「おーい、コタロウ、逃げちゃだめだよー」

ヒロとサスケがコタロウを追いかける。取り残されたロン、ハンゾウ、ヒショウも、後を追った。

「こら、待ちなさい。待てえー」

警官たちが追いかけたが、コタロウ、ヒロ、サスケに続いてロン、ハンゾウ、ヒショウも公邸の門の外に出てしまった。

 

「もう、警官たちは追っかけて来ないから大丈夫」

ヒロは、後から門の外に出てきたロンとハイタッチした。

「デウスの家のキレイな玄関を見たから、警官たちに見つかってしまったな」

ロンはコタロウ、サスケ、ハンゾウ、ヒショウに話しかけた。

「見ろよ、ロン、一人乗りのカプセル型の自動車がいっぱい走っているぞ」

目の前の広い道路を見て、ヒロが声をあげると、ロンは自動車の中を凝視して言った。

「どの自動車にもハンドルがない。みんな自動運転で走っているんだ」

 

一方、直接デウスの家の中に現れたケン、マリ、サーヤ、ミウ、カゲマルは、無事にデウスに会うことができた。

「オリンポス国へようこそ。君たちが現れるのを待っていたよ。しかし、聞いていた人数より少ないようだが、どうしたのかな?」

デウスが首をかしげると、マリが明るく答えた。

「この家の玄関がキレイだから、うっとり見ているんでしょう」

  

<第164話へ続く>

 

 

 <第164話 2017.11.12>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 「それは大変だ。君たちの仲間は、公邸警護の警官に逮捕されるかもしれない」

デウスの言葉にミウが反応する。

「えっ、すぐに助けに行かなくちゃ」

「待ちなさい、モニターで外の様子を見てみよう」

デウスの声に反応して、部屋の壁に公邸の外の様子が映し出された、

 

「警官たちが門の方から公邸の玄関に戻って来ている。ということは、君たちの仲間は門の外に出てしまったようだな。オリンポスの国民から見れば、君たちは得体の知れない宇宙人だ。大騒ぎにならないうちに、ここに連れ戻そう」

そう言って、デウスが合図をすると、美しい少女が部屋に入ってきた。

「アルテミス、このお客さんたちの仲間を急いでここに連れて来ておくれ」

「はい、お父様。あ、皆さん、ようこそオリンポス国へ。じゃあ、ちょっと行ってきます」

 

ケンが、アルテミスの後姿をうっとり見つめていると、ミウがケンの背中を軽くたたいた。

「ケン、そんなことしてると、サーヤに嫌われるよ」

「えっ、何言ってるんだよ、モニターを見てるだけなのに」

ケンがドギマギしてモニターを指差すと、公邸の門の外を歩いているヒロたちが映っている。

「あ、もうアルテミスがヒロたちに近づいている。あれ、何なの、ロンがうれしそうな顔してる」

マリが口をとがらせて、ちょっと怒った。

 

「あなたたち、一般の人たちに見つかると大騒ぎになるから、私と一緒に公邸の中に入りましょう」

アルテミスが近づきながらヒロに声をかけると、ヒロより先にロンが答える。

「そうだね、でも、どうして君は僕たちのことを知っているの?」

「私は、デウスの娘のアルテミスです。皆さん、ようこそオリンポス国へ」

アルテミスが軽くロンをハグした後、ヒロをしっかりハグした。その様子を見て、サスケが二人の間に割り込んだが、手遅れだった。

 

「初めまして、アルテミス。僕はヒロ、これは愛犬のサスケです。彼は仲間のロン、そして、ペットのコタロウ、ハンゾウ、ヒショウです」

ヒロはアルテミスを見つめたまま、夢見心地でみんなを紹介した。サスケが心配してヒロの足を踏んでみたが、ヒロはアルテミスの虜(とりこ)になってしまったようだ。

「あなたがヒロなのね。昨日、父からみなさんのことを聞いたのよ。早く公邸の中に入って、お話しを聞かせてね」

そう言いながら、アルテミスが公邸の玄関に向かうと、ヒロたちは一列になって後に続いた。

  

<第165話へ続く>

 

 

 <第165話 2017.12.6>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 「アルテミスが君たちの仲間をハグしたのは、歓迎の気持ちを表す挨拶だよ」

公邸内のモニターを見て、デウスがさりげなく説明すると、ミウとマリが同時に質問した。

「なぜ、アルテミスはロンを軽く、ヒロをしっかりハグしたんですか?」

「それは・・・アルテミスに聞いてみないと・・・」

デウスはあいまいな返事をしたが、アルテミスがヒロに興味を持っていると気づいていた。

 

「お父様、みなさんを連れて来ました。こちらがヒロ、そしてロンよ」

アルテミスが、透き通った声で二人をデウスに紹介した。

「アルテミス、ありがとう。ヒロ、ロン、そしてペットたち、ようこそオリンポス国へ。君たちのことは、シュウジから聞いていたよ。」

デウスは、公邸の中に入って来た一人一人に笑顔を向け、最後にヒロを見た。

 

「シュウジって、ヒロの父さんがここに来たんですか?」

ケンが驚いてたずねると、デウスは笑って答える。

「いや、厳密に言えば、ここに来たのはシュウジのクローンだ。地球の科学水準は、我々と同じレベルに達しているようだな」

「地球では、動物のクローンは作れますが、倫理上の制約があって人間のクローンは作られていません。でも、ヤミやアンコクの魂(たましい)と戦うために、父は医学者の母と協力して自身のクローンを作ったのでしょう」

サーヤがそう言うと、デウスはうなづいたが、ヒロは夢見心地でアルテミスを見ている。

 

「ヒロ、サーヤ、あなたたちのお父様はすごい科学者なのね」

アルテミスが、やさしくヒロに話しかける。

「そうなのかな。オリンポス国の文明は地球よりずっと進んでいて、ぼくたちの父さんよりすごい科学者がいるんじゃないの?」

ヒロが遠慮がちに言うと、アルテミスがほほ笑んで答えた。

「じゃあ、これからあなたを最先端の研究所に案内するから、私についてきてね」

 

ヒロが、アルテミスに続いて部屋を出ると、二人乗りのカプセル型自動車が待っていた。

「この自動車も自動運転なの?」

ヒロがたずねると、アルテミスは驚いた表情で聞き返す。

「地球では自動運転じゃないの?自動運転じゃないと、ぶつかったり道路の外に飛び出したりするでしょう?」

ヒロがうなづくと、アルテミスはヒロの手を握って自動車の中に入った。

  

<第166話へ続く>

 

 

 <第166話 2017.12.10>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 「ドライブを楽しんでから、ヘパイストス研究所に行って」

アルテミスが自動車に話しかけると、自動車は了解という意味の合図音を発してスーッと動き出した。

「えっ、声だけでナビ(カー・ナビゲーション・システム)を使えるの?」

ヒロが驚いていると、アルテミスが笑顔で答える。

 

「そうよ、私が生まれるずっと前から自動ナビ、自動運転よ。ドライブしている間に、オリンポス国の交通システムを教えてあげましょう」

運転席のアルテミスが、助手席のヒロの顔を見つめると、アルテミスの頭から光る糸のようなものが伸びて、ヒロの頭の中に入っていく。すると、ヒロの脳内のニューロンが急速に発達して、アルテミスの知識を高速で修得し始め、あっという間に記憶してしまった。

 

「要するに、陸上交通網は道路だけ。大都市間の長距離移動には幹線道路を整備して、リニアモーターカーのような地上に浮く超高速の大型車両を使う。中小都市間の中距離移動は専用道路を整備して、頻繁に高速の中型車両を走らせる。都市内や近郊の短距離移動は、個人用の小型車両を使う。すべての道路の必要な箇所に発信器と受信器を設置して、完全自動運転を可能にしている。交通管理センターで人工知能が常時コントロールしているから、事故や渋滞はないということだね」

そう言って、ヒロはアルテミスに憧れの眼差しを向けた。

 

「ヒロ、あなたは忍術という特殊なことができるんでしょう?私がびっくりするようなことをやって見せて」

アルテミスがヒロの心の中を覗くように見つめると、ヒロはどぎまぎしながら答える。

「一番得意な忍術は、つむじ風になって空を飛ぶ術だよ。でも、オリンポス惑星の重力が地球と違えば、失敗するかもしれない」

「二つの惑星の重力にはどんな関係があるの?」

不思議そうな表情を見せてアルテミスがたずねると、その可憐さにヒロの心は溶けてしまう。

 

「惑星の表面の重力は、惑星の半径の二乗に反比例し、惑星の質量に比例する。この惑星の半径は地球の二倍だから、質量が地球の質量の四倍なら、この惑星の重力は地球の重力とほぼ同じになると思うよ」

ヒロが天を見上げて呼吸を整えると、アルテミスはヒロの子供っぽいしぐさを可愛いと思う。

「じゃあ、回りから見えない森の中の広場で飛んで見せて」

  

<第167話へ続く>

 

 

 <第167話 2017.12.31>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

 二人が広場に着いた。ヒロが自動車から降りて、走り出す。

「地球と同じ感覚で飛べるかな?」

そう言って、スピードを上げて走ると風が巻き上がった。

「あっ、すごーい、ヒロがつむじ風になって飛んでいる」

アルテミスが空を見上げて感動していると、金色に輝く高級車が向こうの空から飛んできた。

「あれっ、空飛ぶ自動車が飛んで来たぞ。うわっ、ぶつかる」

ヒロが急上昇して高級車をよけると、端正な顔立ちの青年がクルマの窓から顔を出した。

 

「君は、その宇宙服で空を飛んでいるのか?」

青年がヒロに向かって問いかけると、地上からアルテミスが説明する。

「アポロン、その子は忍術を使って飛んでいるのよ。お父様が言っていたヒロよ」

「おっ、アルテミス、こんなところで遊んでいたのか。研究所でみんなが待っているよ」

アポロンは、アルテミスとヒロがなかなか研究所に現れないので、探しにきたのだ。

 

「ヒロ、紹介するわ。双子のアポロンよ。科学、芸術、なんでもできる天才だけど、今度作った金色の空飛ぶ自動車は派手すぎるわ」

地上に降りたヒロに、アルテミスが笑顔を向けた。

「すごいクルマだね、アポロン。どうやって飛んでいるの?重力をコントロールしているの?」

ヒロが強い興味を示すと、アポロンは金色の自動車から降りて得意げに話し始めた。

 

「重力に負けない浮力を作っているのさ。詳しいことは研究所に行ってから説明するけど、翼が無いのに空を飛べるってすごい発明だろう?ところで、君は忍術を使って飛んでたようだが、何の装置も無いのにどうして空を飛べるんだい?」

「忍術っていうのは、厳しい訓練によって修得するものだよ。でも、僕のつむじ風の術は例外で、気が付いたら飛べるようになっていたんだ」

ヒロは、アポロンが信じてくれないだろうと思いながら、アポロンの反応を待った。

 

「そうなのか、訓練しなくても空を飛べたのか。僕も同じだよ。みんな信じないけど、気づいたら何でもできるようになっていたんだ。だから天才って言われるんだろうな」

アポロンは、自分の良き理解者に巡り合ったように喜んだ。

「私は双子だから、アポロンは訓練嫌いな天才だって分かっているよ」

アルテミスが、アポロンの肩をたたいて明るく笑った。

  

<第168話へ続く>

 

 

 <第168話 2018.1.17>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

  「ヒロ、僕のクルマで研究所に行こうよ」

アポロンがヒロを誘うと、アルテミスがさえぎった。

「だめよ、アポロン。ヒロは私のクルマに乗るのよ」

アルテミスはアポロンに厳しい視線を送り、ヒロの手を握って自分の自動車に乗せた。

「あんな空飛ぶクルマより、私のクルマの方が楽しいでしょう?」

アルテミスに見つめられると、ヒロの心は空高く舞い上がった。

 

ヘパイストス研究所に着くと、サーヤを始めみんながヒロとアルテミスを待っていた。その後ろから白いあごヒゲの男が近づいて来る。

「ようこそ、ヘパイストス研究所へ。私は研究所長のプロメトスです」

ヒロはプロメトスの挨拶に応えると、すぐに質問し始めた。

「オリンポス国の文明は地球よりずっと進んでいると思います。全ての自動車が自動運転で速くて安全だし、アポロンは空飛ぶ自動車を発明したんだから。何百年前から自動運転が始まったんですか?」

 

プロメトスは、地球から来た少年少女たちが理解しやすいように気をつけて話し始めた。

「過去のオリンポス惑星には多くの国があって、相互に争ったり、協力したりしていたんだ。科学技術、医療技術、軍事技術、何でも競っていたから、暴走することもあった。数千年前には原子力発電や核爆弾が発明され、放射能汚染や核戦争の危険が高まった。多くの国の指導者は自重していたが、ある弱小国の中で内戦が起きて、追い詰められた指導者が自国や周辺国の原子力発電所を爆破してしまったんだ」

 

みんな驚いて息を飲んだ。その直後に、ロンが声を出す。

「そんなことをしたら、この惑星の生物が放射能に汚染されてしまうじゃないですかっ」

プロメトスが悲しい表情で話しを続ける。

「それどころか、その弱小国の周辺国から世界中に混乱が波及して、多くの原子力発電所が破壊されてしまった。電力不足になるだけでなく、多くの生物に奇形が発生したり滅亡したりして、この惑星の文明が退化して全ての国が崩壊してしまった」

 

静かに聞いていたサーヤが、涙を浮かべて問いかける。

「今の平和なオリンポス国からは想像もできない過去があったんですね。その大事件の後から、どうやって今のようになったんですか?」

「ここから後の説明は、アポロンにしてもらおう」

プロメトスがアポロンに歩み寄って、彼の肩に手をおいた。

  

<第169話へ続く>

 

 

 <第169話 2018.3.5>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

  「我々の星には、多数派の四本腕二本足人種、少数派の二本腕四本足人種がいて、二本腕二本足人種が奴隷だった時代があった。数千年前の放射能汚染によって、すべての人種に奇形や変化が生じたが、荒廃した環境に最も良く適応できたのは、奴隷だった二本腕二本足人種だった」

アポロンは、順にプロメトス、アルテミス、ヒロを見た。

 

「富や権力を失った人種は退化し、失うものがなかった人種は進化した、ということか・・・」

ヒロの後ろに立っているケンがつぶやいた。

 

「そうかもしれない。とにかく、進化した人種は、人種によらず能力の高い人材を集めて政府を造った。その政府は、この惑星唯一の政府であり、国ごとの政府ではない。いや、進化した人種は国というものを造らなかったんだ」

アポロンは、そう言ってアルテミスに視線を向けた。

 

「過去の失敗から多くのことを学んだから、大多数の人々は新政府の方針に賛同したの。反対派もいたけど、暴力や戦争という手段に訴えることはなかったらしいわ」

オリンポス国の歴史として、アルテミスが説明すると、アポロンが続ける。

 

「新しい政府のもとで、科学技術と医療技術は大惨事以前の水準を超えて発展した。交通機関には効率性と安全性が求められ、自動運転を基本にした交通システムが開発された。それが発展して現在の交通システムになったんだ。」

 

「やっぱりオリンポス国の文明は地球より進んでいるなあ」

ヒロとロンが同時に声をあげた。

その時、ヘパイストス研究所内に警報が響き渡った。

 

「あっ、小惑星が接近しているという警報だ。出動するよ、アルテミス!」

アポロンが部屋の外に向かって駆け出すと、アルテミスもその後に続きながらヒロを誘った。

「ヒロも一緒に行こう!小惑星がオリンポス惑星に衝突しないようにするのよ」

 

「わかった。どうすればいいか教えて!」

ヒロがアルテミスを追いかけると、ケンとミウも後に続く。

「ヒロ、俺たちも手伝うよ」

 

アポロンが研究所の廊下を走って行った先には、小型の宇宙船があった。

「これに乗って7つの衛星を操作するんだ。一番外側の衛星の重力で、接近する小惑星の進路を変えるのさ」

  

<第170話へ続く>

 

 

 <第170話 2018.3.13>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

  アポロンに続いて、アルテミス、ヒロ、ミウ、ケンが小型宇宙船に乗り込んだ。

「アルテミスとミウは、その装置の前に座って。そしてヒロとケンはあの装置の前に座って」

アポロンの指示に従って、みんなが配置に着くと、宇宙船が上昇し始めた。

 

「あれっ、どうしてこんなに静かに上昇できるの?」

ヒロがアポロンに問いかける。

「エンジンを回して空気を噴射してるから、そんなに静かじゃないよ。ただ、ちょっと、重力の方向を操作してるからエンジンの音が小さいのかな」

アポロンが自慢気に答えた。

 

「アポロン、小惑星はいつオリンポス惑星に衝突するの?」

アルテミスが目の前の装置を操作しながら言った。

 

「一時間以内ってところだよ。早くしないと手遅れになるぞ」

アポロンは落ち着いているが、ミウはパニックになりそうだ。

「小惑星がこの星に衝突したら、生き物が絶滅しちゃうじゃない。どうして、そんなに落ち着いているの?」

 

「ミウ、慌てなくても大丈夫よ。こんなことは毎年のように起こっているから」

そう言って、アルテミスは操作している装置をミウに見せる。

「これは何を計算しているの?」

七つの衛星に関して、アルテミスが何を計算しているのか、ミウにはわからなかった。

 

「一番外側の衛星は、接近して来る小惑星より重いから、その重力で小惑星の進路を変えることができるのよ」

アルテミスが説明すると、アポロンが続ける。

「でも、小惑星は超高速で接近して来るから、外側の衛星が小惑星に長い間近づいているように、七つの衛星を操作する必要があるんだ。そのために、小型宇宙船の中から衛星を観測して、リアルタイムで計算するんだよ」

 

「あっ、こっちの装置に何か映っているよ、アポロン」

ヒロが画面に映る微小な点に気づいた。

「すっげえ小さい点が動いてるぞ。小惑星じゃないか?」

ヒロと同じ画面を覗き込んで、ケンが言った。

  

<第171話へ続く>

 

 

 <第171話 2018.4.5>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

  「ヒロ、その画面の矢印を小惑星の位置に重ねてくれ」

アポロンが、ヒロに向かって言った。

「了解、小惑星の位置に重ねたよ」

ヒロが矢印を素早く動かして、アポロンに答えた。

 

しかし、画面の中の小惑星の横に光る点が突如現れた。

「なんだあ、この光る点は?ああーっ、画面が乱れたー」

画面を凝視していたケンが大声をあげた。

 

「どうしたの?ケン」

「ヒロ、何が見えるんだい?」

アルテミスとアポロンが同時に立ち上がって、ヒロに近づいた。

 

ヒロとケンは宇宙船の窓の外に視線を移した。

「外を見ろよ、アポロン。光る点が真っ赤に燃えて大きくなっていくよ」

ヒロがそう言うと、アポロンは何かに気づいた。

 

「あっ、あの光る点は、この宇宙の外側にある別の宇宙の先端じゃないか?この宇宙も別の宇宙も11次元時空の中にあるけど、別の宇宙がこの宇宙に侵入して来るなんて・・・」

 

アポロンを遮って、ミウが叫ぶ。

「あーっ、小惑星が光る点にぶつかるーっ」

強烈なエネルギーを持つ光る点は、巨大化する前に小惑星と衝突した。

 

その瞬間、小惑星は急膨張して、粉々に分裂した。

分裂した小惑星は超高温の真っ赤な破片となって、飛び散って行った。

「あっ、真っ赤な破片が目の前を飛んで行く」

ヒロは、いくつもの破片が七つの衛星に衝突するのを見た。

 

小惑星と衝突した光る点は、エネルギーを失って消えそうになっている。

「おーっ、小惑星と激突したから、光る点のエネルギーはなくなったのか?」

ケンがそう言うと同時に、アルテミスが叫ぶ。

 

「みんな伏せてー!何かにしっかりつかまって!」

光る点から放出された強烈なエネルギーによって、みんなが乗った宇宙船が吹き飛ばされた。

「あっ手が滑った。あーっ危ない!」

アポロンが、宇宙船の中を回転しながら、端まで飛ばされた。

 

「アポロン、大丈夫か?」

ヒロがアポロンを助けようとした瞬間、宇宙船が激しくバウンドした。

宇宙船は、ヘパイストス研究所から少し離れた林の中に落ちた。

  

<第172話へ続く>

 

 

 <第172話 2018.5.8>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

  「うー、痛い、痛い・・・」

ヒロは宇宙船の中で、うつ伏せのまま意識を回復した。

「ヒロ、無事で良かった。他のみんなも助かったよ」

デウスの優しい声が聞こえたが、ヒロの体は動かない。

 

「あー、良かった。でも、アルテミスやアポロンの・・・」

ヒロの意識が薄くなって、言葉が続かない。

「ヒロ、君たちは大変な事象に遭遇したんだ。あの光る点は、別の宇宙が我々の宇宙に侵入してくる先端だった。」

デウスの声が遠くから聞こえる。

 

「影宇宙のほかに別の宇宙があるのか・・・」

ヒロにはデウスの言葉が聞こえているが、夢の中にいるようだ。

 

「我々の宇宙は十一次元時空の中にある。十一次元は一次元の時間軸と十次元の方向軸に分けられる。その時空の中には無数の宇宙があると、オリンポス国の科学者は考えている。我々の三次元宇宙は七次元方向には広がっていないが、その七次元の内の三次元や四次元方法に広がっている宇宙があっても不思議ではない」

デウスは言葉を続ける。

 

「我々の宇宙とは異なる方向に広がる三次元宇宙が、第四の次元方向に伸び始めて我々の宇宙に侵入してきたら、見えない方向から突然ひとつの宇宙が出現したことになる。我々の三次元宇宙の向こう側の広大な別宇宙が壁の穴からこちら側に出てきたように見える。こちらに出てきた別宇宙が巨大化すると、向こう側の別宇宙が収縮して手の中に入るほどの小さな宇宙になる」

 

デウスの声が徐々に遠ざかっていく。

 

気を失っていたヒロが目を覚ました時には、サーヤ、マリ、ロンが、心配そうにミウとケンを見守っていた。ここは、大きな病室のようだ。

「ヒロ、やっぱり一番早く気がついたね」

サーヤが笑顔でヒロに声をかけた。

 

「ミウとケンは、大丈夫?」

ヒロが起き上がりながら、周囲を見た。

「二人とも体中に打撲傷があるけど、骨折はしていないわ。もうじき目を覚まして、身体中が痛いって言うはずよ」

サーヤがミウの肩に右手を置いて、ヒロに答える。

 

しばらくすると、ケンが目を開けた。

「イテテ、体中が痛い・・・」

「あっ、ケンが目を覚ました。良かったね、ケン」

マリがケンの両手を握って、にっこりした。

 

「うーん、あちこち痛い。私の体は大丈夫なのかな?」

ミウも意識が回復した。

「骨折していないから大丈夫だって。でも痛いだろうね、ミウ」

ロンが気の毒そうな表情を見せた。

  

<第173話へ続く>

 

 

 <第173話 2018.6.6>

 

2節 オリンポス惑星の住人

 

  「宇宙船が墜落した後、何が起きたのか、夢を見たのか、良く覚えていないよ」

ヒロがミウとケンの顔を見る。

 

すると、サスケの口からシュウジの声が聞こえる。

「宇宙船が墜落した衝撃で、ヒロたちの宇宙服の機能が壊れた。宇宙服には言葉を翻訳する機能だけでなく、異星人同士の姿を互いに自分に近い姿に変換する機能もあった」

 

まだぼんやりしているヒロは、しっかり理解できない。

「うーん、それは・・・」

 

「つまり、地球人にはオリンポス人の姿は地球人のように見えるし、言葉も自国語に聞こえる。オリンポス人から見れば、宇宙服の中の地球人はオリンポス人に似た姿に見えるし、言葉もオリンポス語に聞こえる」

 

「あー、そうか・・・」

 

「これは、オリンポスのプロメトスと私のクローンが協力して作った人工知能を組み込んだ宇宙服だ。その機能が壊れた時に、ヒロは一瞬だけアルテミスとアポロンの自然な姿を見たんだよ」

 

「あーっ、だからアルテミスとアポロンが不思議な姿に見えたのか」

ヒロは、バラバラになっていた記憶がひとつになったと感じた。

 

「あっ、そうだ。デウスが、別の宇宙が我々の宇宙に侵入して来たって言っていたよ」

宇宙船の中で倒れていた時の記憶が戻ったヒロが、シュウジに話しかける。

 

「小惑星が光る点にぶつかる前に、アポロンが同じようなことを言っていました」

ミウは恐ろしい光景を思い出して、声を震わせた。

 

「それはすごい経験をしたね。地球の科学者の中には、そんな現象を予想している人もいるけど、まだ科学的に解明されていないんだ。みんなが知っている重力だって、その本質はまだ謎なんだよ・・・」

 

シュウジの声が遠ざかっていくと、竜の子供達が現れた。

「早く母さんのいるところに連れて行っておくれ、タリュウ」

 

ヒロ、サーヤ、サスケがタリュウに、ミウ、マリ、ヒショウがジリュウに、ケン、コタロウ、ハンゾウがサブリュウに、ロン、カゲマルがシリュウに乗り込んで、陰宇宙の中を下降して行く。

  

<第174話へ続く>

 

(C)Copyright 2018, 鶴野 正

 

 

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