<第174話 2018.7.31>
3節 重力波の衝撃
「オリンポスの宇宙船が落下した後、誰が僕たちを竜の中の病室に運んでくれたの?」
タリュウの中で、ヒロがサーヤにたずねる。
「デウスとプロメトスが研究所のスタッフと協力して助けてくれたのよ」
サーヤがサスケの頭をなでながら答えると、ヒロは何か思い出そうとする。
「デウスたちが僕を竜の病室に運んでいる時、デウスの声は聞こえていたけど、姿は見えなかった。何かシートみたいなものを僕の体にかけてくれたのかな?」
「そうよ、ヒロの宇宙服の一部の機能が壊れたことに気づいたから、シートをかけたんじゃないかな」
「そうか、デウスとプロメトスは、僕がオリンポス人の自然な姿を見て驚かないようにしてくれたのか」
「私の宇宙服の機能は壊れなかったのかな?不思議なものは何も見なかったよ」
ジリュウの中から、ミウがヒロに話しかける。
「宇宙船が墜落した時から竜の中の病室に運び込まれるまで、ミウとケンはずーっと気を失っていたから何も見ていないはずよ」
タリュウの中からサーヤが答えた。
「いや、俺は途中で気がついたけど、目を開けなかっただけだよ」
体力自慢のケンは、強がりを言ったが、気を失ったことすら思い出せない。
「ヒロはアルテミスを好きになったんだろ?」
話題を変えたくなったケンが、いきなりヒロに聞いた。
「違うよ、アルテミスがヒロを誘惑したんだよ」
シリュウの中のロンが、助け舟を出した。
「そうなの、ヒロ?」
つい、ミウが声に出してしまうと、すかさず、マリが口をはさんだ。
「ヒロ、誰が一番きれい?アルテミス?ミウ?それともマリ?」
「アハハ、何言ってるんだい、マリ。みんな、キ レ イ だよ」
ヒロが困惑していると、ケンが冷やかす。
「やっぱり、アルテミスを好きになっていたな、ヒロ」
「オリンポス惑星に来る途中で、ミウが超新星爆発の衝撃波に襲われたけど、今度は大丈夫かな?」
苦手な話題から逃げ出したいヒロが、ケンに話しかける。
「あっ、そうだ。六億年前の過去から未来に戻っているから、あの衝撃波に出会うかもしれない」
ケンが、そう言ったとたんに、タリュウがグルグル旋回し始めた。
「タリュウは、銀河の中心にあるブラックホールに引き寄せられているぞ」
ヒロとサーヤにシュウジの声が聞こえる。
「えっ、超新星爆発の衝撃波じゃないの?」
サーヤが問いかけると、シュウジが答える。
「別の宇宙が、我々の宇宙に侵入してきた影響で、宇宙の時空が大きくゆがんだようだ」
<第175話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第175話 2018.8.17>
3節 重力波の衝撃
「この宇宙の中には、我々の銀河と同じような銀河が千億個もあるんでしょ?」
旋回するタリュウの中から、ヒロがシュウジに問いかける。
「そうだよ。多くの科学者は、それぞれの銀河の中心には巨大なブラックホールがあると考えている」
シュウジが答えている途中で、ジリュウの中にいるマリが叫んだ。
「きゃあ、ジリュウもグルグル回り始めたあー」
「おー、サブリュウもブラックホールに引き寄せられているぞ。ヒロのお父さん、俺たちはどうなるんですかー?」
サブリュウも旋回し始めたが、ケンはまだ恐怖を感じていないようだ。
「ブラックホールの中に落ちると、光ですら出られないと言われているんだ」
シュウジの声は、なぜか落ち着いている。
「いろんなものが沢山落ちると、ブラックホールの中はいっぱいになってしまうんじゃないですか?」
理屈っぽいロンが思いつきを口にするが、同じことを考えている科学者もいる。
「ロン、そんなことを言ってる場合じゃないよ。父さん、私たちはブラックホールに飲み込まれるの?」
サーヤはシュウジがなんとかしてくれると信じているが、心配になってきた。
「宇宙の時空がゆがむという想定外のことが起きたから、簡単には止められないかもしれない。でも心配しなくていいよ、サーヤ」
そういうシュウジの声を聞いて、みんなの不安が少し和らいだ。
しかし、タリュウたちは旋回し続けている。
「不思議だなあ。僕たちは影宇宙の中を六億年前の過去から未来に戻っているから、ブラックホールのある宇宙の重力は影宇宙には届かないはずだけど・・・」
ヒロがつぶやくと、シュウジの声が反応した。
「そうだ、ヒロ、よく気がついたな。我々の宇宙の中で働く重力は、外に漏れ出ることはないと考えている科学者は多いが、実際には影宇宙の中に届いている。しかし、宇宙の中でブラックホールに引き寄せられるより、影宇宙の中で引き寄せられる力はずっと弱い」
「じゃあ、影宇宙の中で頑張って移動すれば、宇宙の中のブラックホールから離れられるんですね」
ようやく、ミウとマリに笑顔が戻った。
<第176話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第176話 2018.9.10>
3節 重力波の衝撃
「少し難しいかもしれないが、ブラックホールの向こうに別の宇宙があると考える科学者もいる。この宇宙を含む三次元の巨大空間の中に無数の宇宙があるというイメージだ」
シュウジはヒロやサーヤが理解できるかためしている。
「ブラックホールの向こう側にある別の宇宙は、子宇宙っていうんでしょう?子宇宙を見てみたいなあ」
ロンはシュウジが連れて行ってくれることを期待している。
「そのまま行くのは危険だよ。ブラックホール付近には巨大な力が働いて、重力波が発生しているんだ」
シュウジの声を聞いて、ロンは落胆した。
しかし、楽天的な面も持っているケンが、ヒロたちに話しかける。
「ブラックホールの向こうに行くのは無理だとしても、重力波が発生しているブラックホールの近くまで行ってみようよ」
「いや、そんなに簡単じゃないんだ。別の宇宙については、違うイメージを抱いている科学者も多い。つまり、この宇宙を膨張するボールの表面のようなものと仮定すると、この宇宙とは異なる次元方向に広がっている別の宇宙があるというイメージだ」
シュウジは、ケンの視野が広がるように誘導している。
「我々の宇宙は膨張しているけど、過去の姿を残しながら現在から未来に膨張しているってことですか?」
ケンが反応する前に、ミウがシュウジにたずねる。
「そうだね。過去の姿が残っているから、この宇宙の膨張する方向と逆の方向に移動できれば、現在から過去に遡ることができる。今、君たちがいる影宇宙の中で上昇するということは、我々の宇宙の過去に向かって移動するということだよ」
シュウジの声を聞いて、すぐにケンが反応する。
「そうか、我々の宇宙が膨張しながら過去の姿を残しているから、影宇宙を通って過去に行けたのか」
「なるほど、ブラックホールの向こうにある子宇宙は我々の宇宙と同じ三次元の中にあるけど、影宇宙はこの宇宙と違う次元方向に広がっているんだ。だったら、同じ三次元の中にある子宇宙を見に行くよりも、影宇宙の中で冒険している方が面白そうだね、ヒロ」
ロンは一人で納得して、ヒロに同意を求めた。
「そうかも知れないけど、早く地球に戻って母さんの所に行きたいよ」
「そうよ、最初の目的を忘れて冒険している場合じゃないのよ」
ヒロとサーヤが口をそろえて、ロンに言い返した。
「あれは何なの?アニメの戦艦みたいな艦隊が見えるよ」
ジリュウの中で遠くを見ていたマリが、百機ほどの宇宙戦艦が移動しているのを見つけた。
<第177話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第177話 2018.11.18>
3節 重力波の衝撃
「あっ、ほんとだ。大型の戦艦がたくさん移動している。どこから来たんだ?」
ケンが戦艦の動きを警戒する。
「あー、その向こうに惑星が見えるよ。地球みたいに高等生物が住んでいるのかなあ」
ロンは向こうの惑星に興味を示す。
「宇宙戦艦はその惑星から来たみたいだ。そして、遠くに光っている惑星に向かっていると思うよ」
ヒロが千里眼の力で詳しく見ようとしている。
「へー、あの光っている星は惑星なの?遠くてよく見えないのに、ヒロの千里眼はすごいね」
マリは地球から火星を見るような気持ちになっている。
「父さん、宇宙戦艦が出てきた惑星には、地球人以上の高度な宇宙人がいるんでしょ?」
サーヤがサスケに向かって問いかけると、シュウジの声が聞こえる。
「その惑星チイには高度な文明を築いたチイ人がいる。惑星チイに住めなくなったら、遠くに光っている惑星トイに移住するという計画を持っているようだ」
「それは、ここの太陽が膨張して惑星チイの気温が高くなる時のことですか?遠くの惑星トイは太陽から遠いから、チイより気温が低くて住みやすいのかな?」
ミウは質問したが、シュウジが答える前に一人で納得している。
「惑星チイとトイは、太陽系の地球と火星のような関係だ。火星は地球人のような高等生物が住める惑星ではないが、将来、地球人が住める基地を作るという計画があるよ」
シュウジの声が聞こえる。
「でも地球人が火星に住むのは、ずーっと先のことでしょ?でも、たくさんの宇宙戦艦が惑星トイに向かっているということは、惑星チイから大勢のチイ人が惑星トイに移住しようとしているんじゃないの?」
ヒロの質問にシュウジの声が答える。
「惑星チイに高度な文明を築いたチイ人は、チイの将来の高熱化に備えて、惑星トイに移住する計画を立てた。そして、高度な生命体のいない惑星トイの環境整備を進めてきた。わずかなチイ人と人工頭脳を備えたロボットたちが惑星トイに住み着き、ロボットを増やしてチイ人が住めるようにトイを改造してきたんだ」
<第178話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第178話 2018.12.31>
3節 重力波の衝撃
「なるほど。でも、なぜ戦艦が出撃してきたのかなあ?タリュウ、少しだけ過去にもどってくれないか?」
ヒロの言う通りにタリュウが影宇宙の中で上昇すると、宇宙の中の戦艦は惑星チイにもどって行く。
ヒロの千里眼には、百機ほどの戦艦が戻って行った惑星チイの指令本部らしき建物が見えている。さらに、その中で議論している二人の指導者の声が聞こえる。
「アモン、もう限界だ、トイのアテンが我々の説得に応じなければ攻撃せざるを得ない」
「待て、ホルス、トイにはヌトがいる。アテンはロボットだが、ヌトは我々と同じチイ人だぞ」
ホルスは、トイ星を支配するためには攻撃する必要があるというチイ星の指導者。一方、アモンは、トイ星を攻撃せず説得する方が良いと主張するチイ星の指導者だ。
「わかった、アモン、もう一度トイのヌトとアテンを説得してくれ」
すぐにチイ星からトイ星に交渉要請の連絡が入った。
そのトイ星の指令本部にいるヌトとアテンは、遠隔通信手段を使って応答している。
「ホルス、アモン、何度も言っているように、我々トイ人はチイ人の支配は受けない」
トイ星に住み着いて開拓しているヌトは、チイ人と戦わず独立するというチイ人だ。
「ヌト、何を言っているんだ。チイ人全員が将来トイ星に移住するために、開拓しているんだろう?我々はトイ星を支配するとは言っていないぞ」
チイ星のアモンは、平和的にチイ人全員がトイ星に移住できると考えていた。
「アモンは支配しないと言っているが、ホルスはどうなんだ?我々はトイ星に移住して来るチイ人に指導されたくないのだ」
アテンは天才的な人工頭脳を持つトイ星のロボットであり、交渉が決裂すれば戦ってでも独立すると主張している。
「アテン、我々チイ人はトイ星を支配しないし、指導するつもりもない。ただ、トイ人とチイ人が別々の国を造ることには賛成しない」
チイ星のホルスは、トイ星に移住した後は、多数派のチイ人が指導者になるべきだと考えていた。
「ホルス、多数派のチイ人と少数派のトイ人が一つの国の中で主導権争いをするより、最初は別々の国を造って平和的に共存すべきだろう」
ホルスがトイ星を支配したがっていることを知っているヌトは、何とかしてホルスを説得しようと試みた。
トイ星を開拓中のヌトがチイ人の立場からトイ人の立場に変わってしまったことに怒ったホルスは、チイ星のアモンに目配せして無言で交渉の場から立ち去った。
「ホルス、まだ話は終わっていないぞ・・・」
チイ星の指令本部の中で、アモンが小声でホルスを呼び止めた。
ホルスが立ち去ったことは、直ちにトイ星の指令本部にいるヌトとアテンに伝わった。
「ホルスは何をする気だ?アモン、ホルスはどこに行ったんだ?」
トイ星のヌトは、最悪の事態を避けようとチイ星のアモンに呼びかけた。
<第179話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第179話 2019.6.14>
3節 重力波の衝撃
「あー、わかった。ホルスが戦艦部隊に攻撃命令を出したんだ」
ヒロが千里眼で見たこと聞いたことを説明すると、ジリュウの中にいるマリが心配する。
「チイ星の戦艦がトイ星を攻撃すると、トイ星はどうなっちゃうの?」
「よーし、影宇宙から出ないで戦艦部隊の後を追ってみよう」
ケンは戦艦部隊がどんな攻撃をするのか知りたかった。
「いや、先回りしてトイ星の様子を見ようよ。タリュウ、急いでトイ星に行っておくれ」
ヒロの指示に従って、タリュウが時間を遡りながらトイ星に向かうと、ジリュウ、サブリュウ、シリュウが後に続いた。
「おー、近くで見るとトイ星は人が住めるようには見えないなあ」
ロンが千里眼でトイ星の開拓状況を詳しく見ようとしている。
「でも、カプセルみたいな住居と道路みたいなものが見えるよ」
ミウも千里眼で、トイ星を開拓中の住民達を見つけようとする。
その頃、トイ星のヌトとアテンは、チイの戦艦部隊がトイ星に向かって出撃したことを把握した。すぐさまヌトはトイ星の住民達をシェルターに避難させる。
ヌト達は、チイ星のホルスがトイ星を攻撃してくる事態に備えて、避難用のシェルターを造っていたのだ。
「うわー、チイ星の戦艦部隊が長距離ミサイルを発射したぞー」
ケンが叫んだ。その直後、ミサイルがトイ星のシェルターを直撃した。
「きゃあ、シェルターが吹っ飛んだー。トイ星の住民が死んじゃうよー」
マリが泣き声をあげる。
ミサイルに直撃されたトイ星が、一瞬静かになった。
そして、地下から武装したロボットのような集団が地上に出てきた。
人工知能を備えたロボット達とトイ星に住み着いていたチイ人達は、チイ人がトイの住民を支配するのを阻止しようとロボット軍団を組織していたのだ。
アテンは、地上に現れたロボット軍団の戦闘ロケット部隊に出撃命令を下した。
戦闘ロケットには人工知能が装備されていて、チイの戦艦部隊より高性能だ。
直ちに、トイ星の司令部から不可思議なレーザー光が発射され、チイ星の戦艦部隊の目前に無数の戦闘ロケットが出現する。
チイ星の戦艦は、戦艦ヤマトのような形をした巨大な宇宙戦艦。
一方、トイ星の戦闘ロケットは、ライオンのような動物の形をした小型の宇宙ロケットだ。
チイ星の巨大な戦艦を小型のライオン形ロケットが包囲して、強烈なレーザー光で攻撃する。
チイ星の戦艦部隊は長距離ミサイルが役に立たなくなったので、目前に現れた戦闘ロケットを砲撃するが、砲弾は戦闘ロケットをすり抜けてしまう。
しかし、戦闘ロケットは幻影ではなく実態があるので、強烈なレーザー光を浴びせて戦艦を一機ずつ破壊していく。
その時、重力波が押し寄せて来た。
不可思議なレーザー光が創り出した戦闘ロケットは、宇宙空間の中で幻影のように消滅したり現れたりして戦闘力を失った。
<第180話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第180話 2019.6.24>
3節 重力波の衝撃
「トイ星の戦闘ロケットに何が起きたんだ?」
ケンは、トイ星の戦闘ロケットを応援する気持ちになっていた。
「戦闘ロケットに装備された精緻な人工知能が、重力波の影響で誤作動したんじゃないか」
ヒロは、千里眼を使って戦闘ロケットの性能を把握していた。
一方、チイ星の戦艦部隊は重力波の影響をほとんど受けなかった。
戦闘ロケットの攻撃を受けてチイ星の戦艦の数は半減していたが、残った戦艦がトイ星に向けて長距離ミサイルを発射しようとする。
「長距離ミサイルが発射されたら、トイ星の住民が死んでしまう!」
ケンがサブリュウの中から飛び出そうとすると、サブリュウは口を閉じてケンを止める。
*** ケン一人の力じゃあ、ミサイルは止められないよ・・・
「いや、今行かなきゃ大変なことになる!」
ケンがサブリュウの口をこじ開けて外に出て、さらに影宇宙からも飛び出した。
「あー、ホントにケンが飛び出した。どうしよう・・・」
シリュウの中にいるロンはおろおろしている。
「タリュウ、ケンの後を追ってくれ。このままではケンが死んでしまう」
ヒロは、ケンを影宇宙の中に連れ戻そうと焦った。
しかし、ジリュウの中にいるミウとマリが叫んだ。
「あーっ、ケンが長距離ミサイルにくっ付いたまま、トイ星に向かって飛んでいくよー」
「タリュウ、ケンが影宇宙を飛び出す前まで時間を戻してくれ!」
ヒロの指示に従ってタリュウが影宇宙の中で上昇すると、ミサイルが逆戻りするのが見える。
そのミサイルが元の戦艦に戻る直前に、ケンがミサイルから離れて影宇宙に逆戻りするかに見えた。
しかし、タリュウが影宇宙の中を上昇して宇宙の時間を遡っても、影宇宙の時間は前に進んでいた。だからケンは影宇宙に戻って来ない。
「こうなったら、僕が影宇宙を飛び出してケンを連れ戻すしかない!」
ついにヒロも飛び出して、宇宙の中に出てきたばかりのケンの腕を掴んだ。
「何をするんだ、ヒロ。俺はミサイルを止めなくちゃならないんだ!」
そう言って、ケンはヒロを振り切って戦艦に突進して行った。
「待てー、ケン。ミサイルを止めるのは無理だー、危険すぎるぞー!」
ヒロが後を追ったが、ケンは戦艦から発射されたミサイルに突進した。
「えーい、最強の地竜でミサイルを破壊してやるっ」
ケンが渾身の力を振り絞って地竜を放つと、ミサイルが一部破損して進路がそれた。
すぐにミサイルを発射した戦艦が、ケンに向かって砲撃してきた。
「おっと危ない」
ケンは辛うじて砲弾を避けたが、他の戦艦数機も攻撃してきた。
ジリュウの中からケンの戦いを注視していたマリとミウが悲鳴をあげる。
「あーっ、ケンに砲弾が当たったあー」
「ケン、ケン、死なないでー」
タリュウの中に戻ったヒロは呆然としている。サーヤもサスケも固まって動けない。
シリュウの中のロンは、カゲマルを抱きしめて震えている。
<第181話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第181話 2019.6.27>
3節 重力波の衝撃
砲弾が当たったケンの体は「く」の字型に曲がり、宇宙空間を戦艦と反対方向に移動して行く。
「タリュウ、急いでケンを助けてくれ」
ヒロが言うと同時に、タリュウが影宇宙から顔を出した。
まさにその時、チイ星の戦艦の数十倍大きなピラミッド型の宇宙船が目の前に現れた。
その宇宙船はすぐに強力な引力を使って、ケンの体を回収してしまった。
ヒロたちが驚く間も無く、ピラミッド型宇宙船の扉が開いた。
中から出てきたのは、チイ星のホルス、アモン、そしてトイ星のヌト、アテンだ。
「これは、いったいどういうことなんだ?」
ヒロは混乱しているが、サーヤは冷静に問いかける。
「ケンは生きていますか?」
「皆さん、その少年は生きています。それどころか、全く無傷です」
ヌトの口が動き、その声がヒロたちの耳元で聞こえる。
「でも、あなた達はケンを攻撃した上に、宇宙船の中に隠しているじゃないですか」
ミウがジリュウの口から顔を出して、ヌト達を非難する。
「これは失礼した。事情を説明しましょう」
今度はアモンが前に出て来た。
「科学者達は、我々と違う星から宇宙人がやって来る確率はゼロに近いと言っているが、防衛省としては万一の事態に備えて準備をしている」
アモンは説明を続ける。
「防衛省の中には、我々の星の周囲を常時監視している装置がある。その装置が数日前に侵入者を感知したが、どこにいるのか突き止められなかった」
「僕たちが影宇宙の中にいたから、わからなかったんだな」
ロンがつぶやくと、その声が聞こえたかのようにホルスが話を引き継ぐ。
「侵入者の所在を探すと同時に、我々の防衛力を見せつける目的で戦艦部隊を出動させたが、侵入者の姿は見えなかった」
「あー、その戦艦部隊をマリが見つけて、僕たちが動き出したから察知されたんだ」
ヒロはヌト達の探査能力の高さに感心している。
「侵入者が姿を表さないので、宇宙空間に大掛かりな幻影を作り出して、侵入者をおびき出そうとした」
そう言ってホルスが下がると、アテンが説明を続ける。
「チイ星の戦艦部隊がトイ星を攻撃するという状況で、あの少年が飛び出して来たので、侵入者の姿を確認できた。同時に、侵入者達の行動を分析した結果、我々の敵ではないと判断した」
「僕たちが好奇心で近づいたために、あなた方は強く警戒したんですね。今後は気をつけて行動します」
ヒロが反省の言葉を伝えると、マリが不安な気持ちを声にする。
「ケンはホントに無事なの?早くケンを返してください」
<第182話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第182話 2019.7.18>
3節 重力波の衝撃
「では、宇宙人の皆さん、こちらの宇宙船の中に入って来てください」
ヌトがピラミッド型宇宙船の扉の前で手招きをする。
「入っても大丈夫かな、ヒロ?」
ミウとマリは不安な表情で、ヒロの顔を見る。
「僕とサーヤが先に入って、ケンが無事かどうか確かめるよ」
ヒロとサーヤがタリュウの口から飛び出して、ピラミッド型宇宙船の中に入った。
すると、二人の目の前に、椅子に座っているケンが現れた。
「おー、ヒロ、サーヤ、何が起きたかわからないけど、俺はどこもケガしていないよ」
サーヤがケンの頭と肩に手を触れて、どこもケガしていないことを確かめる。
「よかった、ホントにケンは無事だったんだ」
ケンは砲撃されたショックで気を失ったから、まだ事態を理解できていないが、とにかく嬉しくてサーヤをハグしたくなった。
「助けに来てくれてありがとう、サーヤ」
ケンが立ち上がってサーヤをハグしようとしたが、サーヤの横にいたヒロに抱きついてしまった。
「ケン、ケガはしてないけど、まだ足元がふらついてるよ」
ヒロが笑ってケンの体を受け止めた。
「安心したようだね。他の皆さんもこちらに来るように言ってください」
ヌトがヒロとサーヤに話しかけると、ヒロがミウ達に合図を送った。
「よかった、ケンは無事なんだね」
マリ、ミウ、ロンが笑顔で宇宙船の中に入って来た。
「ところで、宇宙人の皆さんは宇宙空間から突然現れたけど、別の宇宙から来たのかな?」
ホルスが冗談めかして、ヒロやケンの顔を見る。
「うーん、説明するのは難しいけど、そう考えてもらってもいいです」
ヒロは、相手が信じないかもしれないと思って、曖昧に答えた。
すると、ホルス、アモン、ヌト、アテンの四人は顔を見合わせてうなづいた。
「我々の科学者達は別の宇宙があるという理論を信じているが、実際に別の宇宙を見たものはいない。宇宙人の皆さんは別の宇宙に住んでいるのか?」
不思議なものを見るような目をして、アモンがサーヤとミウに質問する。
サーヤが落ち着いた態度で、影宇宙を通ってここまで来たことを話すと、アテンが自分たちの宇宙論について話し始めた。
「我々の宇宙にある千億個以上の銀河は、その中心に巨大ブラックホールを持っている。そこに光子やエネルギーが吸い込まれている。」
<第183話に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正
<第183話 2019.9.12>
3節 重力波の衝撃
ロンが同意するような表情で目を合わせると、アテンは話を続ける。
「そのブラックホールの先には子宇宙があり、光子やエネルギーが吹き出ている。この宇宙から出て行った光子やエネルギーは、無数の子宇宙の中に現れているはずだ」
さらに、アテンの話は続く。
「実際、我々の宇宙の源から膨大な光子やエネルギーが吹き出しているから、我々の宇宙は膨張し続けている。従って、我々の宇宙は何らかの親宇宙から生まれた子宇宙の一つということになる。この増加するエネルギーのことを我々はダークエネルギーと呼んでいる」
「すごい、僕たち地球人の科学より進んでいるなあ。あなた達は豊富な知識と科学的思考力を持っているんですね」
ロンはアテン達の能力に憧れの気持ちを抱いたようだ。
「いや、あなた達が通ってきた影宇宙のことを我々の科学者達は知らないから、我々の科学が格段に進んでいるとは言えない。もう少し地球の科学について話してくれないか?」
アモンはヒロ達を宇宙船の奥に案内しようと歩き出した。
「あー、僕たちは急いで地球に戻らなくてはならないんです。でも最後に一つだけ、重力波について教えてくれませんか?ダークマターは光を通さないけど重力波には反応するのですか?」
ヒロがアモンに問いかけた。
「ダークマター(暗黒物質)は、宇宙に存在する物質の80%以上を占めていることは知っているかな?物質とは全ての銀河や宇宙空間に存在する原子、そしてダークマターのことだ」
アモンに代わってアテンが基本的な説明を始める。
「星や銀河は遠くにあっても光や電波を反射するから、望遠鏡で見ることができるけど、ダークマターはどうやって観測すれば見えるのか分かりますか?」
ロンがアテンの説明の続きを聞きたがる。
「ダークマターは光子や電子に反応せず、重力のみに反応する物質だ。誕生直後の宇宙では、ダークマターの重力に引き寄せられて通常の物質が集まり、ここから星や銀河が作られて、後の時代の惑星や生命の誕生にもつながった。ダークマターは重力に反応するから、重力波を観測すればダークマターを観測できるが・・・」
アテンの説明が長くなりそうと感じたマリが、アテンに近づいてほほ笑みかけた。
「重力波の衝撃は恐いと思ってたけど、なんともなかったわ。私たちは急いでヒロのお母さんの所に行かなきゃならないから、影宇宙に戻ります。ありがとう、皆さん」
「それは残念だ。もっと地球のことを教えてもらいたかった。皆さんが通ってきた影宇宙のことも知りたかったけど、長々と引きとめる訳にはいかないな」
ヌトがヒロ達を名残惜しそうに見つめる。
ヒロが天を見上げると、タリュウたちが影宇宙から顔を出した。
「じゃあ、宇宙船の皆さん、色々教えてくれてありがとう。さようなら」
ヒロ達は影宇宙に戻って行った。
<第184話「4節 アトランティスと古代エジプト」に続く>
(C)Copyright 2019, 鶴野 正