宇宙の忍者 ヒロ     1章 8節

 

<第98話    2014.4.23>

 

8節 女神ラクシュミー

 

「タリュウ、急いで行ってくれ!」

ヒロの慌てた様子に、タリュウは困惑して答える。

*** どこに行けばいいんだい?それに、どうしてそんなに慌てているの?・・・

「この街の未来にすごい爆発が起きて、神殿が破壊されるんだよ。君達の母さんが言った大変なことっていうのは、きっと、すごい爆発のことだよ!」

ヒロの説明を聞いて、ジリュウ達も慌て始める。

 

*** そりゃあ大変だ!でも、それはどれくらい未来のことかな?・・・

*** ヒロが見た爆発って、どれくらい激しいの?・・・

ジリュウ、サブリュウが、未来の大惨事のことをヒロに聞いた。

「今まで見たこともないくらい大きな爆発だよ!どれくらい未来なのか分からないから、この街を見ながら急いで未来に行ってくれよ」

ヒロが答えると、タリュウは影宇宙の中を下降して未来に向かった。ジリュウとサブリュウもタリュウの後を追って未来に向かった。

 

「うわあー!あれはなんだあ?」

「ああー!光の塊が地面にぶつかるー!!」

ケンとミウが大声で叫んだ。太陽の何十倍も明るく輝く光の塊だ。ヒロがモヘンジョ・ダロの街を見ると、その数キロメートル東の地面にオレンジ色に光る巨大な塊が激突した。

「うわっ!あああー!」

ヒロが叫ぶと同時に、凄まじい衝撃波が影宇宙を揺さぶった。

 

「おおー!コタロウ、大丈夫かー?」

「きゃあー!カゲマルー!」

「うわあー!サスケー!」

ケンもミウもヒロも、コタロウもカゲマルもサスケも、みんな衝撃波に吹き飛ばされて、影宇宙から飛び出してしまった。タリュウ、ジリュウ、サブリュウは、影宇宙の奥へ吹き飛ばされて見えなくなった。

 

<第99話へ続く>

  

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<第99話    2014.5.1>

 

「ミウ、ヒロ、大丈夫かー?」

ケンがコタロウの手をつかんで叫ぶと、ミウが応える。

「カゲマルも私も大丈夫だよー」

「よかった!みんな、つむじ風になって、丘の上の神殿まで飛んで行こう!」

ヒロがサスケを抱いて飛びながら、ミウとケンに向かって叫んだ。

「わかった、神殿までだね!」

ミウがカゲマルをかかえて飛んでいく。

「おい、ヒロ!神殿が崩れ落ちるぞー!」

ケンがコタロウを背中に乗せて飛びながら、ヒロに向かって叫んだ。

 

ヒロ達が崩れ落ちたばかりの神殿の傍に降り立つと、頭上を真っ黒な雲が覆った。

「まだ昼なのに、急に暗くなったね。大雨になりそう」

ミウが空を見上げて心配すると、ヒロが答える。

「さっき見たオレンジ色のでっかい塊が地面に激突したから、たくさんの土が上空まで噴き上がったんだ。その土がもとになって、真っ黒い雲ができたんだよ」

 

丘の上から街を見下ろしたケンが、苦しそうにうなった。

「さっきの衝撃波で、街中の建物や家が壊れて燃えているぞ・・・」

「ケガをした人や動けない人もいっぱいいるよ」

ミウの目に涙があふれてきた。

ヒロが空を見上げたとたん、バケツをひっくり返したような大雨になった。

「この大雨で火事は消えるだろう。でも、ケガをした人達を早くどこかに避難させなくちゃ・・・」

ヒロがつぶやくと、すぐにサスケが走り出した。

 

サスケが向かった先には、大雨の中で、ケガをした人々を助けている若い女性がいた。

「痛い、痛い・・・、誰か、早く助けて!」

片腕を骨折し頭から血を流している老女が叫ぶと、若い女性が近寄って老女の肩に手を触れた。この若い女性も顔と腕に傷を負っている。

「もう大丈夫ですよ。しばらく横になっていると楽になりますよ」

若い女性が優しく声をかけると、老女の苦しそうな表情が笑顔に変わった。

「ありがとう、ラクシュミー。血が止まって、痛みが消えていくよ」

 

<第100話へ続く>

  

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<第100話    2014.5.8>

 

「ううー、痛い・・・、ううー、ラクシュミー、助けてくれ・・・」

あちらこちらの倒れた建物の壁際から、ラクシュミーと呼ばれる女性に助けを求める声がする。ラクシュミーは、ケガをした人々の頭や肩に触れるだけで、ケガを治していった。

 

「お母さん、ヴィーナのケガがひどいの!すごい血が出てるよ」

がれきの隙間から小さな女の子がラクシュミーに訴えると、ラクシュミーが駆け寄った。

「あっ、ヴァーチュ!あなたもケガをしているじゃないの!ヴィーナ、もう大丈夫よ」

ラクシュミーは、右手でヴァーチュという小さな女の子の頭に触り、左手でヴィーナという幼い女の子の肩を優しく撫でた。

 

ヴァーチュとヴィーナはラクシュミーの娘達で、ヴァーチュが姉だ。

「あっ、ヴィーナの血が止まった。良かったね、ヴィーナ!」

ヴァーチュが妹のヴィーナを抱き起こすと、ヴィーナはラクシュミーとヴァーチュにほほ笑んだ。

「ヴァーチュ、ここでヴィーナと一緒に待っていてね。私はみんなのケガを治して来るから」

ラクシュミーが優しく言うと、娘達は不安げな表情になったが、こっくりと頷いた。

 

街中のほとんどの人が大ケガをしていた。死んだ人も大勢いる。

「ケガした人達を早く治療しないと、死んでしまう・・・」

あちらこちらから助けを求める声がするので、ラクシュミーはケガをした人達に次々と触れていった。

「私達が持っている薬を使って、お手伝いしましょう」

ミウがラクシュミーの後から声を掛けた。

 

ラクシュミーが振り向くと、サスケが顔を見上げていた。その先にヒロ、ミウ、ケンがラクシュミーを見つめて立っていた。

「あなた達はどこから来たのかしら。でも、今はそんなことより、少しでも手伝ってもらえるとうれしいわ」

ラクシュミーが、ひどいケガをした人を先に治していくと、ミウがケガの軽い人に薬を塗っていった。

「あなたが治療した人達を建物の中に運びますよ」

ヒロとケンは、被害の少なかった建物の中にケガ人を運んで休ませた。 

 

<第101話へ続く>

  

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<第101話    2014.5.17>

 

「ケガをした人が多すぎて、いつまでたっても終わらないよ!忍術を使って俺たちを十人ずつに増やそうぜ」

ケンがくるくるっと回ると、ケンが十人になった。

「じゃあ、ぼくもそうしよう」

「わたしも十人になるよ」

ヒロとミウもくるくるっと回って、それぞれ十人になった。

「すごい!三人が三十人になるなんて!」

ラクシュミーが驚きの声をあげて、大勢になったミウ達を見た.

 

十倍の人数になったミウ、ヒロ、ケンの働きで、大勢のケガ人が治療を受けて建物の中で休むことができた。もちろん、瀕死の重傷を負ったケガ人はラクシュミーの奇跡の力で回復した。

「なんとか、ケガをした人達みんなが建物の中に入ることができたわ。もう夜になったから、あなた達は休みなさい」

ラクシュミーがヒロ、ミウ、ケンに声をかけて、ヴァーチュとヴィーナを迎えに建物から出て行った。

 

「十人になると、十倍疲れるなあ」

ケンが腰をさすりながら座り込む。

「十倍働いたからね。それはそうと、ラクシュミーの能力はすごいね!」

ミウはヒロがどう思っているのか、知りたかった。

「ラクシュミーならマリを救えるかも知れない」

ヒロが目を輝かせてミウとケンの手を握った。

 

そこへラクシュミーがヴァーチュの手を引き、ヴィーナを片手で抱いて戻ってきた。

「ヴァーチュ、この人たちが手伝ってくれたから、ケガをした人達みんなが建物の中に入れたのよ」

「やあ、ヴァーチュ、俺は力持ちのケンだよ。このサルはペットのコタロウ。よろしく!」

「わたしは、優しくて賢いミウよ。この猫はカゲマル。よろしくね、ヴァーチュ!」

「僕は、空を飛べるヒロだよ。この犬は賢いサスケ・・・」

ヒロが言い終わらないうちに、ヴァーチュがサスケの首に抱きついた。

「わー、かわいい!サスケ、わたしはヴァーチュっていうのよ」

 

<第102話へ続く>

  

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<第102話    2014.5.22>

 

建物の中にはケガをした人達が大勢いる。死にそうになった多くの人達がラクシュミーの力で回復したのだ

「ラクシュミー、あなたはどうやってその素晴しい能力を修得したのですか?」

ヒロが訊ねると、ラクシュミーは穏やかな笑顔で答える。

「十日前に真っ赤に燃える塊が空から落ちてきて、地面に激突した時、この街は大混乱になったの。その時、私は人々とぶつかって転倒して気を失ったわ。そこで不思議な夢を見て一日後に目覚めたら、ケガをした人々を助けることができるようになっていたのよ」

「あー!あれは十日前のことだったのかー」

ケンが天井を見上げて大声をあげた。放射能廃棄物を登載した飛行物体がモヘンジョダロの郊外に激突した時のことを思い出したのだ。

 

「どんな夢を見たんですか?神様か何かが夢に現れましたか?」

ミウはブラフマーの夢にはデウスが現れたことを思い出して質問した。

「この街の人々を救いたいと夢の中でゴータマ神にお願いしたけど、何も現れなかったわ。でも、大ケガをした人に私が触ると、ケガが治ってしまう夢を見たのよ」

ラクシュミー本人にも理解できない方法で、すごい能力が与えられたようだ。

「今度は私が質問する番よ。あなた達はどこから来たの?」

ラクシュミーが、ヒロ達三人だけに聞こえるよう小声で聞いた。

「信じてもらえないかもしれないけど、僕たちはヴィシュヌ神の時代からやって来ました」

ヒロが同じように小声で答えると、ラクシュミーは少し驚いた表情をみせた。

 

その時、焼けこげた服を着た一人の男が建物の中に入ってきた。顔も体も血だらけだ。

「ラ・・・、ラクシュミー・・・、市長と・・・副市長が・・・亡くなりました・・・」

そう言って、男は前に倒れ込んだ。

「えっ!おじいちゃんとお父さんが、死んじゃったのー?」

まっ先に叫んだのは、ヴァーチュだ。ラクシュミーの顔が見る見る真っ白になっていく。

「ほ・・・ほんとですか?あなたもひどいケガですね。何があったんですか?」

ラクシュミーは気が動転していたが、倒れた男の肩に手を触れて語りかけた。

「オ・・・オレンジ色に光る大きい塊が落ちてきて・・・、市長も・・・副市長も・・・十人くらい・・・みんな吹き飛ばされました・・・。私は・・・遠くにいたので・・・、死なずに・・・すみました・・・」

男は、瀕死の重傷を負っていたが、ラクシュミーの力で話ができるようになった。 

 

<第103話へ続く>

  

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<第103話    2014.6.2>

 

「ミウ・・・、ヴァーチュとヴィーナをお願い!ヒロとケンは、私と一緒に来てくださいな」

そう言って、ラクシュミーはヴァーチュとヴィーナを抱きしめた。

「今からお父さんとおじいちゃんの所に行ってくるから、ミウと一緒にここで待っていてね」

ラクシュミーが歩き出そうとしたが、ヴァーチュとヴィーナがすがりついて離さない。

「ヴァーチュも・・・お父さんとおじいちゃんのところに行きたーい!」

「ヴィーナも…行きたーい!」

 

「ラクシュミー・・・、あなたの奇跡の力でケガが治りました。私がこの若者たちと一緒に市長や副市長が倒れている場所に行ってきますから、あなたはここに残って街のみんなを助けてください」

男が立ち上がり体中をさすって、ケガが治ったことをラクシュミーに見せた。

ラクシュミーが何か言おうとしたが、ケンがさえぎってヴァーチュとヴィーナの頭をなでた。

「ヴァーチュ、ヴィーナ、いい子だからお母さんと一緒に待っていろよ」

「ミウ、また何か落ちてくるかもしれないから・・・、ラクシュミーと子供たちを頼んだぞ」

ヒロは飛行物体がまた激突してくることを心配していた。

 

男が歩き出し、ケンとヒロが後に続いた。

「私はボサツという者で、十日前に空から光る塊が激突した場所を復興するため、市長について行きました・・・」

ボサツと名乗る男は涙を流しながら、市長や副市長たちに襲いかかった大惨事の様子を話した。

「あの時の衝撃波はすさまじかったから、激突した場所の近くにいた人たちは、みんな遠くまで吹き飛ばされました。地面から岩石や土が噴き上がって、私のいたところまで熱風が襲ってきました」

 

涙が止まらないボサツを両側からヒロとケンが抱えて走り出した。

「しっかり僕たちにつかまって!」

ヒロがボサツに声をかけると、ケンが気合を入れた。

「さあっ、地面を蹴って!」

ヒロとケンに抱えられて、ボサツも空を飛んだ。

「ああー・・・、空を飛んでいる・・・」

ボサツがビックリしていると、ケンが皆の体をゆらしながら話しかける。

「市長や副市長が倒れている所へ、しっかり案内してくださいよー」

 

<第104話へ続く>

  

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<第104話    2014.6.12>

 

ボサツが指差す方向に飛んでいくと、地面が大きく窪んでいるのが見える。近づくと、畑や草地だった場所が黒く焼けただれ、異様な臭いがしている。窪んだ地面の真ん中には大きな穴があいて、中から煙が出ている。

「放射能があるかもしれないから、大きな穴には近づかないようにしよう」

危険を感じたヒロが誘導して、窪んだ地面の外側に降りた。

「あっちに市長たちが倒れています!」

ボサツに続いてヒロとケンも駆け出した。

 

「うわー・・・、こりゃあ・・・ひどすぎる・・・」

ケンはヒロの肩に手をおいて、うなった。

「市長・・・市長・・・。副市長・・・副市長・・・。あっ・・・ああっ・・・」

ボサツは、うつぶせに倒れたままの市長と仰向けに倒れている副市長の遺体にすがって泣き出した。付近には市役所の職員が十人死んでいた。どの遺体も黒く焼け焦げている。

「ううー・・・とにかく・・・市長と副市長の遺体をラクシュミーのいる所に運ぼう・・・」

あまりの悲惨さに気を失いかけたヒロが、気力を振り絞って副市長の遺体を担ぎ上げようとする。

 

*** ヒロ、おいらが手伝うよ。一人じゃ無理だろう?副市長はおいらが口にくわえて運ぶから、ヒロはおいらの背中に乗って・・・

タリュウが空から顔を出して、ヒロにささやいた。驚いたヒロは、副市長の遺体を抱いたまま地面にしゃがみこんでしまった。

「あー・・・、タリュウ!おどかすなよー。ジリュウ達も無事だったかい?」

*** ああ、おいらもサブリュウも大丈夫だよ。市長はおいらが運ぶよ、ケン・・・

ジリュウが空から顔を出し、ヒロとケンに向かって片目をつぶってみせた。

「おー、それはありがたい。頼むぞ、ジリュウ」

*** じゃあ、ケンとボサツは、おいらの背中に乗りなよ・・・

サブリュウが空から顔を出して、驚いているボサツにウィンクした。

 

タリュウの背中に乗ったヒロが、タリュウに何か伝えた。タリュウは、街の中で待っているミウとラクシュミーの心に話しかけた。

*** タリュウだよ。今、市長と副市長の遺体を街に運んでいるよ。二人を丘の上の神殿の近くに埋めて、街を見守ってもらおうって、ヒロが言ってるよ・・・

ラクシュミーは驚いて空を見たり周囲を見ていたが、ミウは落ち着いてタリュウのことをラクシュミーに説明した。

「タリュウ!それがいいと思うわ。すぐに子供たちを連れて、丘の上に行くって、ヒロに伝えて」

事情を理解したラクシュミーが、空に向かって静かに答えた。 

 

<第105話へ続く>

  

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<第105話    2014.6.21>

 

丘の上の神殿は崩れ落ちていた。空から顔を出したタリュウが、口にくわえていた副市長の遺体を静かに地面に置いた。ヒロがタリュウの背中から降りると、ジリュウが空から顔を出し、口にくわえていた市長の遺体をそっと地面に置いた。続いて、ケンとボサツがサブリュウの背中から降りた。

「おっ、ミウとラクシュミーたちが登って来たぞ」

ヒロとケンが駆け寄って、それぞれヴァーチュとヴィーナを抱きかかえて戻って来た。その後からミウとラクシュミーが丘の上に現れた。

 

涙をこらえて立っているボサツのそばに、ラクシュミーの夫と父親の遺体が横たわっている。

「ああーっ、あなた・・・、ああ・・・、お父様もこんな姿に・・・」

ラクシュミーは、夫と父親を同時に失った悲しみに耐えきれず、地面に両手をついて泣き崩れた。ヴァーチュとヴィーナが、泣きながら駆け寄った。

「お父さーん・・・、おじいちゃーん・・・、お返事してよおー・・・」

ヴァーチュとヴィーナが、交互に副市長と市長の肩を触って返事を催促している。

 

しばらくして、ヒロがラクシュミーの手を取って話しかけた。

「早すぎるかもしれないけど、二人の遺体を埋めていいですか?」

「はい・・・、神殿のすぐ近くに埋めてください・・・」

ラクシュミーは、涙に濡れた顔を上げて答えた。

ケンとボサツが神殿のすぐ近くに穴を掘り、二人の遺体を静かに横たえた。

「市長と副市長の姿を見たい・・・」

ラクシュミーに命を救われた大勢の人々が丘に登ってきた。

 

横たわっている市長と副市長の姿を見た人々は、声をあげて泣いた。

「この街の平和を守ってくれた市長が、光の塊に殺されるなんて・・・」

「我々はみんな、賢くて優しい副市長が大好きだったのに・・・」

泣きながらヴァーチュとヴィーナの頭をなでる人や、ラクシュミーの手を握る人もいた。

「我々の大好きな市長と副市長のために、ここに記念碑を建てよう!」

ボサツが涙に濡れた顔を上げて、みんなを見渡した。

「おおー、そうだ、そうしよう!」

人々は、亡くなった二人の功績をたたえ、丘の上に記念碑を建てることにした。 

 

<第106話へ続く>

  

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<第106話    2014.7.16>

 

「皆さん、ありがとう。大ケガをした人も、家が燃えてしまった人も大勢いるのに・・・ ほんとにありがとう」

ラクシュミーが涙をぬぐいながら、人々に感謝の気持ちを伝えた。

「ラクシュミー、あなたは命の恩人だ!お礼を言うのは我々の方だよ」

「壊れてしまったこの街を復興したい。ラクシュミー、市長になってくれないか?」

「ラクシュミーが市長なら、みんな協力するよ!」

人々は、女神に祈るような想いで、ラクシュミーを見つめている。

 

人々の後にさがって、ラクシュミーを見ていたヒロに、懐かしい声が聞こえた。

「ヒロ・・・」

その声の方向を見ると、サスケがきちんと座ってヒロを見ていた。

「その声は・・・父さんだよね!どこにいるの?」

ヒロが父さんの姿を探すと、サスケの方向から声が聞こえる。

「今は言えないが、いつか会えるよ。ヒロ・・・ ラクシュミーは人の頭や肩に触れるだけでケガを治すことができるようになった。それは、ラクシュミーの脳に治癒の惑星の知恵が焼き付けられたからだよ」

 

「治癒の惑星って?」

ヒロが小さな声で質問すると、父さんの声が答える。

「治癒の惑星とは、二億年前に生命体が住めなくなった惑星だ。その惑星は、今も我々の銀河系の中にある。治癒の惑星は、ある恒星の周りを回っているが、その恒星が歳を取って膨張を始めたんだ。そのために恒星との距離が近くなって、治癒の惑星の温度が上昇した」

「だから、生命体が住めなくなったんだね」

 

「そうだよ。我々の銀河系には恒星が二千億個もあるから、恒星の周りを回っている惑星は数えきれないほど多い。我々の銀河系は百十七億年前に生まれたので、百十七億年後の現在までの間に、膨大な数の恒星が誕生した。それぞれの恒星は歳を取って膨張したり、爆発して消滅したりするんだ」

「治癒の惑星には、特別な治癒の能力を持った生命体がいたの?」

ヒロが小声でつぶやくと、ヒロの耳に父さんの声が聞こえる。

「治癒の惑星には、我々より知能の発達した生命体がいた。治癒の惑星の人間と思ってもいい。彼らの中の優秀な医者は、大ケガや病気を治す方法を修得していた。しかも、一晩眠っている間に、その治癒能力を修得するんだ」 

 

<第107話へ続く>

  

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<第107話    2014.7.25>

 

「あー、ラクシュミーはその方法で治癒能力を修得したのか!でも、治癒の惑星の人間は、地球に来ていないのに、どうやってラクシュミーの脳に治癒能力を焼き付けたの?」

「二億年前に住めなくなった惑星から、知能の発達した生命体がたくさんの宇宙船に乗って宇宙に旅立った。自分達が住むための条件に合う惑星の中で、最も近い惑星に到達するのに数万年かかることは分かっていた。治癒の惑星の人間の寿命が百年程度だとすると、ずっとずっと先の子孫にならないと到達できない。子孫が生き残るには食糧を補給する必要があるが、宇宙空間には何もない。ヒロならどうする?」

 

父さんに質問されて、ヒロはスガワラ先生の言葉を思い出した。

「あ・・・、宇宙人が飛んで来なくても、進んだ文明が地球に届く方法があるんじゃないのかって、スガワラ先生が以前言ってたよ。それから時々考えていたんだけど、食糧の要らないコンピュータみたいなものを子孫として育てる・・・」

「それはいい考えだが、コンピュータや宇宙船は一万年もしないうちに動かなくなってしまうよ。治癒の惑星の人類は、自分と同じ姿形の子孫を残すことをあきらめて、自分達の高い理想と高度な文明だけを残すことにしたんだ。それは、デウスがオリンポスの国の神として治癒の惑星の古代人に知恵を授けたのと同じ方法だよ

 

「あれ・・・、デウスは一万一千年前のブラフマーに知恵を授けた神でしょ?二億年以上前に治癒の惑星に現れていたなんて・・・」

ヒロがサスケに向かって話しかけているのを見たケンが、ヒロに近づいて来た。

「ヒロ、誰と話をしてるんだい?サスケじゃないよな?」

ケンの質問にヒロが答える前に、ミウが弾んだ声でヒロとケンに話しかけた。

「ラクシュミーが市長になったら、私達も協力しようね」

「もちろん協力するよ!なっ、ケン」

ヒロが笑顔でミウに答え、ケンの方を振り返った。

 

「もちろん、そうだよ、ミウ!」

ケンも明るく答えたが、ヒロが誰と話していたのか知りたかった。

「ケン、そのことは後で説明するよ。でも、今はラクシュミーの話を聞こうよ」

ヒロがケンの背中を押してラクシュミーのいる方へ近づくと、街の人々が大喜びで拍手し始めた。

「あー、もうラクシュミーの挨拶は終わっちゃったよ。新市長として復興計画を話したのに・・・」

ミウががっかりした表情でケンを見た。

 

<第108話へ続く>

  

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<第108話    2014.8.2>

 

その夜、ヒロは父さんに教わったことをケンとミウに話した。

「オリンポスのデウスが二億年以上前に治癒の惑星の古代人に知恵を授けていたなんて・・・」

ケンが暗い空を見上げて、つぶやいた。

「ゴータマに知恵を授けた慈愛の国の神様も、治癒の惑星に現れていたのかしら・・・」

ミウが首をかしげて、ヒロの顔を見た。

「そうかもしれない・・・、父さんに教えてもらえればいいんだけど・・・」

ヒロが小さくため息をつくと、またサスケの方から父さんの声が聞こえる。

 

「オリンポスはある星の惑星で、その星が六億年前に膨張し始めた。高度な文明を持った生命体は、熱くなったオリンポス惑星から避難したんだ。慈愛の惑星にもオリンポス惑星と同じようなことが起きた。それは、四億年前のことだ。慈愛の惑星から避難した生命体は、二億年以上前に治癒の惑星の古代人に知恵を授けていた」

父さんの声は、ミウにも聞こえた。

「じゃあ、モヘンジョ・ダロの近くで独裁者を育てようとしたアンコクも、二億年以上前に治癒の惑星の古代人を独裁者にしようとしたのかしら?」

 

「いや、高度な文明を持った生命体がアンコク惑星から避難したのは、二百万年ほど前のことだよ。アンコク惑星は我々の太陽の何倍も大きい星の惑星だった。大きい星ほど寿命が短く、最後には超新星爆発を起こして消滅してしまう。アンコク惑星の寿命も短かったが、生物の進化が速く進み、知能の発達した生命体が急速に高度な文明を築き上げたんだ・・・」

父さんの説明を聞いていたヒロが、アンコクの横暴を非難する。

「アンコク惑星の文明が高度でも、独裁者に平和な街を攻撃させるなんて許せないよ!」

 

「ヒロの言うとおりだ。だが、アンコクの文明は、今の我々より進んだ技術も持っていた。重力を自在にコントロールすることもできたんだ」

父さんが話している途中で、ケンが声をあげた。

「あっ、アンコクが重力を操作して何十機もの飛行物体を一挙にぶつけたから、巨大な光の塊が地面に激突したのか!」

「そうだ。アンコクは、そんな恐ろしいことも実行するんだ。この後もアンコクが何を仕掛けてくるか分からないから、みんな気をつけるんだよ」

父さんの声が小さくなったのでサスケを見ると、眠そうな顔をして横になっていた。 

 

<第109話へ続く>

  

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<第109話    2014.8.9>

 

翌日から街の復興が始まった。市役所の主な幹部が亡くなったので、ボサツが副市長になり市長ラクシュミーを支えることになった。

「ヒロ、ミウ、ケン、街の建物と道路を復興するのを手伝ってください。ボサツは街の皆さんと協力して記念碑を建てようとしていますよ」

ラクシュミーが丘の上から街全体を見渡した後、記念碑を建てる場所に歩いて行った。

「神殿を復興するには大変な労力が必要だから、記念碑を先に建てましょう」

ボサツの計画を聞いて、街の人々が大きな拍手をした。

 

「では、街の建物と道路を復興する具体的な計画を立てましょう」

ラクシュミーが街を見渡しながら、ヒロ、ミウ、ケンに話しかけた時、遠くから小さな音が聞こえて来た。

「西の方から、今まで聞いたこともない変な音がするよ・・・」

ミウには、不吉なものが近づいてくるように感じられた。

「何か黒っぽい大きな船のようなものが、西の空から近づいてくるぞ・・・」

ヒロが千里眼の力を使って、詳しい形を確認しようとしている。

 

「まさか・・・、ヴィマナという恐ろしい飛行機か?」

ケンがラーマーヤナに書かれていることを思い出して、つぶやいた。

「あー・・・、見えた!黒い船が、空を飛んでこっちに向かって来るー!」

ミウが声をあげると、ラクシュミーがヴァーチュとヴィーナを抱きかかえる。

「急いで安全なところに逃げよう!」

ケンとヒロがラクシュミー達三人を連れて、丘の中腹の頑丈な建物の中に非難させた。

 

「丘の上にいる街のみんなも早く非難させなくちゃあ!」

ラクシュミーが建物の外に出ようとする。

「ラクシュミー、僕たちが非難させるから、あなたはミウと一緒にヴァーチュとヴィーナを守っていてください!」

ヒロがラクシュミーを説得して、外に駈け出した。ケンもすぐ後に続いた。

「うわっ、黒い船が近づいて来るぞー!なんで、あんな大きい船が空を飛ぶんだ?」

上を見上げて、ケンが驚いている。

大きい船が丘の真上を高速で通過する。ゴオオーッと高温の爆風が丘全体を襲って来る。

「ケン、伏せろ!そこの崩れた建物の陰に隠れよう!」

ヒロがケンの腕をつかんで建物の陰に飛び込んだ。同時に、丘の上でいくつもの悲鳴があがった。

 

<第110話へ続く>

  

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<第110話    2014.8.17>

 

「丘の上の人達が、今の熱風にやられたんじゃないか?」

「ボサツは大丈夫か?」

ケンとヒロが顔を見合わせる。すぐに二人は、丘の上のみんなの所に駆け上がった。

大きい船が、ものすごい轟音とともに強烈に光る火炎の尾を残して、東の空に昇って行く。

「やっぱり、あれはヴィマナという恐ろしい飛行機だ・・・」

ケンが東の空を見つめてつぶやいた。

「じゃあ、アンコクがアグネアの矢でこの街を攻撃するのか?」

ヒロが唇をかんで東の空をにらんだ。

 

二人の前には丘の上にいた街の人達が倒れている。

「うわっ、何十人も倒れているぞ。うーん・・・皆ひどい火傷だ!」

ケンがうなった。

「あっ、ボサツも倒れている・・・、ボサツ、しっかりして!」

ヒロが苦しんでいるボサツに駆け寄った。

「あー・・・、なんてひどいことを・・・」

丘の上の異変に気づいたラクシュミーが、建物を出て駆け上がってきた。

 

「皆さん、少しの間だけ我慢してください。すぐに痛みが消えて行きますよ」

ラクシュミーは最初にボサツの肩に右手を触れた。

「あー・・・ラクシュミー、痛みが減っていきます。ありがとう」

ボサツが、ラクシュミーの手を握って感謝の気持ちを表した。

ラクシュミーが丘の上に倒れている街の人々の肩や頭に手を触れて歩くと、皆の火傷が治っていった。

「ああー、火傷が治っていく・・・」

「痛みがだんだん消えていくよ、ラクシュミー」

「もう、立って歩ける。ありがとう、ラクシュミー」

倒れていた街の人々には、ラクシュミーが女神のように感じられる。

 

「ラクシュミー、さっきの熱風でヴァーチュとヴィーナは火傷にならなかったですか?」

疲れた様子のラクシュミーにヒロが問いかけた。

「丘の中腹の頑丈な建物の中にいたから、子ども達もミウも大丈夫よ」

ラクシュミーは落ち着いて答えて、ヒロの向こうに視線を移した。

「あー、大変!街が燃えて、みんなが倒れている!早く助けに行かなくちゃー」

丘の上から街全体を見て、ラクシュミーが悲しい声をあげた。

しかし、東の空から黒い大きな船が、不気味な音と共に近づいて来る。

 

<第111話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

<第111話    2014.8.24>

 

「あの黒い船を破壊しなきゃ、この街が全滅してしまうぞー!」

初めてヒロが攻撃的になった。つむじ風になって、上空の黒い船に向かって飛んで行く。

「よーし、俺も一緒に戦うぞ!」

ケンもつむじ風になって、ヒロの後に続いた。

大きな黒い船は、古い海賊船のように傷だらけで汚れている。船体には大砲発射用の穴らしきものがたくさん開いている。

ヒロとケンが黒い船に近づいていくと、船の底が開いて五機の飛行物体が出て来た。

「あれは何だ?お寺の釣り鐘みたいだな」

「空飛ぶ円盤に似ているぞ。攻撃してくるかもしれない」

ケンとヒロが警戒する。五機はヒロとケンを包囲するように二人の周りを旋回し始めた。

 

「こっちから先に攻撃だあー!いくぞおー、地竜!」

ケンが空中で、五機の飛行物体に向けて渾身の地竜を放った。

「おっ、五機の円盤の動きがバラバラになったぞ。円盤をつかまえて僕たちが操縦しよう!」

動きの遅くなった円盤めがけて、ヒロが手裏剣を投げた。手裏剣が当たった衝撃で、その円盤の入口が少し開いた。

「やったぞ、円盤の入口をこじ開けて中に入ろう!」

ヒロが円盤の入口を開いて中に入ると、ケンがその後に続いた。

 

円盤の中に入ったヒロとケンは驚いた。

「誰もいないし、ロボットもいないぞ・・・」

「真ん中に太い柱があるけど、何だろう?」

円盤の内部を一周すると、外の見える窓が八つあり、それぞれの窓のそばにミサイル発射装置のようなものがあることが分かった。

「ヒロ、この円盤は、どうやって操縦すればいいんだい?」

ケンが、ミサイル発射装置の一つを触りながら窓の外を見た。ヒロは、窓の向こうに見える別の円盤の動きを見ていた。

 

「あっ、あの円盤からミサイルが飛んで来るぞ!あー、危ない!」

ヒロが、真ん中の太い柱に向かって叫ぶと、円盤がスッと瞬間的に横に移動した。

「あれっ、ヒロ、今この円盤が動いたからミサイルに当たらなかったのか?」

ケンが驚いていると、ヒロが大きく息を吐いた。

「あー、危なかった・・・とにかく動けって、強く念じたらミサイルを避けられたんだよ!」

「じゃあ、あの円盤をこっちのミサイルで攻撃しようぜ。よーし、ミサイル・・・発射!」

ケンが真ん中の太い柱に向かって叫んだが、ミサイル発射装置は動かなかった。 

 

<第112話へ続く>

  

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<第112話    2014.8.31>

 

「ケン、あの円盤じゃなくて、大きい黒い船を破壊しなきゃ・・・エイッ!」

ヒロが大声をあげると同時に強く念じると、八つのミサイルが次々と黒い船に向かって発射された。

「おーっ、ヒロ、すごいぞ!どうやってミサイルを発射したんだ?」

ケンはヒロの力に感激した。しかし、強く念じる方法がわからない。

「見ろ、ケン!ミサイルが黒い船に命中したぞ!」

ヒロがケンに向かって片手を突き上げた。

「あれ・・・大きい船が二つの船になったぞ・・・二つ目のミサイルも命中したけど・・・」

信じられないことが起こった。ケンは、二機になった黒い船がさらに割れる様子を見ている。

 

「また、黒い船が割れて四つの船になった・・・黒い船はミサイルを飲み込むのか?」

ヒロが困惑している間にも、三発目から八発目のミサイルが次々と黒い船の集団に飲み込まれていった。そして、黒い船は八、十六、三十二・・・と増えて、ついに二百五十六機になってしまった。

「うわわっ、大変だあー!二百機以上の敵船に囲まれてしまった」

ケンがミサイルで対抗しようと身構えるが、既にヒロが八発すべて発射したので何も残っていない。

 

「仕方がない、敵の船団の中を飛び回って混乱させるしか戦う方法はない!」

ヒロが強く念じると、二人の乗った円盤が、二百機以上の黒い船団の中に突入していった。

「あっ、上の船からミサイルが飛んで来るぞ!」

ケンが叫ぶと、ヒロが強く念じて円盤を別の黒い船の後に動かした。ミサイルは、その黒い船に命中した。

「よし、やったぞ!敵にもっと同士討ちをさせよう」

ヒロが自慢げな顔をケンに向ける。

 

しかし、二百機以上の船から次々とミサイルが飛んでくる。

「ヒロ、あちこちからミサイルが飛んで来るぞ!あっ、あぶない!!」

ケンが八つの窓全てを指差して叫んだ。すると、二人の乗った円盤が数十機の黒い船それぞれの後に回り込みながら移動したので、ミサイルを避けることができた。

「ケン、すごいぞ!ミサイルが当たった船が消えたから、残っている船は百機くらいになったぞ!」

ヒロの言葉を聞いて、ケンは握りこぶしを突き上げた。

 

<第113話へ続く>

  

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<第113話    2014.9.7>

 

「今度は黒い船をつかまえて、僕たちが操縦するぞ!」

ヒロが円盤の中で強く念じると、円盤はスーッと動いて一機の黒い船の底に張り付いた。

「船の底が割れているから、円盤ごと船の中に入ってしまおう」

ケンが、船の底にある円盤の出入り口を見つけて、ヒロに教えた。

「この船の中にも誰もいないぞ。操縦方法もきっと円盤と同じだろう・・・」

そう言って、ヒロが強く念じると、この船のミサイルが四方八方に向かって発射された。

「おおー、ヒロ、やったぞ!ミサイルがつぎつぎ黒い船に命中している」

ケンが興奮して、船の中を走り回る。

「もう、残っている敵船は少ないぞ!」

ヒロがケンに笑顔を向けた。その直後、二人が乗った船が激しく揺れると同時に、船のすべての窓から強烈な閃光が見えた。

 

「うわわー、船がバラバラになったー。敵のミサイルにやられたのか?」

「わわっ、二人とも落ちてしまうー」

ヒロとケンの乗った黒い船が破壊され、二人は空中に放り出された。

「ケン、落ち着け!僕たちは空を飛べるんだよ!」

「そうだった。でも、武器を持たずに黒い船と戦えないぞ!」

二人は空中で態勢を立て直した。

「僕たちの真上にいる黒い船の底に穴が開いている。あの船の中に入って操縦しよう!」

ヒロが真上に向かって飛ぶと、ケンがその後に続く。

「あれ・・・ヒロ、黒い船の後から光るものが飛んで来るぞー!」

ケンが叫んだ。その直後、太陽の何万倍も強い光の塊が二人に襲いかかった。

 

*** ヒロ、ケン、しっかりしろ・・・

強い光の塊に撃たれる直前にヒロとケンはタリュウに助けられた。二人は気を失ったが、タリュウとともに影宇宙の中にいる。

「あっ、タリュウが助けてくれたのか・・・うーん・・・ケン、だいじょうぶか?」

「ああ・・・ヒロ、ケガしなかったか?・・・ラクシュミーや街の人たちは?」

「ミウやサスケたち、子どもたちは、どうなった?」

タリュウの背中につかまったまま、ヒロが周りを探した。

*** ジリュウとサブリュウが、助けに行っているよ・・・

タリュウの声がヒロとケンに聞こえた。

 

<第114話へ続く>

  

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<第114話    2014.9.14>

 

「ヒロ、ケン、無事だったんだね・・・」

ジリュウの背中に乗って、ミウとカゲマルが影宇宙に現れた。ミウは悲しい顔をしている。サスケとコタロウは、元気なくサブリュウに乗っている。

「ヴァーチュとヴィーナ、そして私は助かりましたが・・・うっ、うっ・・・」

話し始めたボサツが泣き出した。ボサツはヴァーチュとヴィーナを抱きかかえて、シリュウに乗っている。

「ラクシュミーや街の人たちは?」

ヒロがシリュウの後を見るが、誰もいない。

 

「ラクシュミーは・・・私にヴァーチュとヴィーナを守るように命じた後・・・街の人達のケガを治しに行きました・・・ ・・・ ラクシュミーが丘を駆け下りて・・・倒れている人々のケガを治している時に・・・空中の黒い船から恐ろしい矢が投げられたんです・・・」

ボサツが、恐怖に震えながら声を絞り出した。ヴァーチュとヴィーナを抱きしめたボサツの目から涙が溢れ出て、幼子たちの顔に落ちた。

「その恐ろしい矢が街の東に落ちると・・・そこに太陽が落ちたように強く光りました・・・と同時に強烈な熱風が街を襲ったんです・・・うっ、うっ・・・」

ボサツは強い悲しみのために、話すことができなくなった。ヴァーチュとヴィーナは泣き疲れて眠っている。

「ああ・・・その矢はアグネアの矢だ・・・」

ケンが小さくつぶやいた。

 

「私たちは丘の西側の建物の中にいたから、強烈な光や熱風を直接浴びることはなかったの・・・でも・・・街の人たちのケガを治していたラクシュミーは・・・街の人たちと一緒に強烈な光と熱風に襲われてしまった・・・」

ミウの言葉を聞いて、ケンは怒りを爆発させた。

「うーっ、アンコクめー!残酷な武器を使いやがってー!」

「僕たちが黒い船を破壊できなかったから、ラクシュミーが死んでしまった・・・」

ヒロは悔し涙をこらえて、天を仰いだ。

 

「アンコク惑星の生命体は高度な技術を持っていた。彼らは寿命の尽きそうなアンコク惑星から避難する時に、恐怖の兵器を宇宙に持ち出した・・・」

遠くから父さんの声が聞こえる。ヒロだけでなく、ミウとケンもサスケを見た。父さんの声は三人には聞こえるが、ボサツには聞こえないようだ。ボサツは子どもたちを抱いて泣いている。

「恐怖の兵器って、空を飛ぶヴィマナやアグネアの矢のことですか?」

ケンがサスケを見た後、天を向いて質問する。

 

<第115話へ続く>

  

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<第115話    2014.9.21>

 

「そうだ・・・他にも想像を絶する危険な兵器を持ち出したと考えられる。移住するための惑星に向かう途中で、アンコク惑星の生命体は死に絶えたが、彼らはアンコクの魂となって宇宙空間を移動している」

父さんが説明する魂(たましい)という言葉の意味が、ミウには理解できなかった。

「その魂って、何ですか?」

ミウの質問に、父さんの声が優しく答える。

「高度な文明を持った生命体の頭脳を何万・何億も集めたような働きをするものだよ。重力を自在にコントロールして、宇宙空間に浮かぶ頭脳のネットワークを作ったんだ」

 

「そのアンコクの魂が黒い船を操縦して、アグネアの矢をこの街に投げつけたのか・・・」

遠くに去って行く黒い船をにらみつけて、ヒロがつぶやくと、父さんの声が聞こえる。

「アンコクの魂が7000年前のモヘンジョ・ダロに現れ、この都市を独裁国家にしようとしていた。しかし、うまくいかなかったので攻撃して破壊してしまった・・・」

「どうしてアンコクの魂は、この都市を独裁国家にしたかったんですか?」

ミウは、独裁国家の住民より慈愛の国の住民の方が幸せだと思っている。

 

「アンコク惑星には多くの国家があって、国と国の戦争が絶えなかった。しかしある時、一人の優秀な生命体が独裁者として惑星全体を統一した。その後は国家間の戦争がなくなったので、アンコク惑星の生命体は、独裁制度を素晴しい制度だと信じているんだ」

父さんの説明を聞いて、ミウの心は深い悲しみでいっぱいになった。

「そんなアンコクの身勝手な考えのために、何の罪もないラクシュミーや街の人たちが殺されてしまったなんて・・・」

 

「オリンポスや慈愛の惑星にも独裁者が惑星全体を支配した時代があったが、数千年の間にいろいろな経験をした後、民主制度の惑星になった・・・しかし、アンコク惑星は独裁制度から民主制度に成熟する前に惑星の寿命が尽きてしまったんだ・・・」

父さんの説明の途中で、ヒロが疑問の声をあげる。

「じいちゃんは、事故で死んだんじゃないって聞いたよ。ヤミっていう何者かにそそのかされた犯人に殺されたんでしょう?そのヤミっていうのは、アンコクみたいなヤミ惑星の魂(たましい)なんじゃないの?」

「うん、そうだな・・・だが、今は詳しい話をする時間がないよ・・・急いでヴァーチュとヴィーナを安全な土地に運んであげなさい・・・」

父さんの声が小さくなって聞こえなくなった。

 

<第116話へ続く>

  

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<第116話    2014.9.28>

 

*** じゃあ、ヴァーチュとヴィーナを安全な土地に運ぼう・・・

タリュウが、そう言って動き出すと、ジリュウ、サブリュウ、シリュウが後に続いた。モヘンジョ・ダロを離れて、影宇宙の中を北東に進むと、眼下に整然とした街が現れた。

「こんな所に大きな街がある。モヘンジョ・ダロに似てるぞ!」

ケンが驚いて、ヒロとミウの方を見る。

「あー、この街はハラッパーでしょ?ヒロ?」

ミウが、忍者学校の授業で習ったインダス文明の古代遺跡を思い出した。

「そうだね。でも、この街もアンコクの魂に攻撃されるかもしれないから、もっと田舎の方に行こう。タリュウ、安全な田舎に行ってくれよ」

ヒロは、ボサツに抱かれているヴァーチュとヴィーナの命を守りたかった。

 

*** あそこにきれいな川と小さな村が見える。降りてみようか?・・・

タリュウがヒロに問いかける。

「村人を驚かさないように、村から離れたあそこの岩の陰に降りよう」

ヒロが村の向こうを指差すと、タリュウが影宇宙から顔を出し、ヒロとケンを岩の陰に降ろした。続いてミウとカゲマル、サスケとコタロウ、最後にヴァーチュとヴィーナを抱いたボサツが岩の陰に降り立った。

 

「この村がアンコクに攻撃されることはないと思います。ヴァーチュとヴィーナを守って育ててください」

ヒロがボサツの両手、そしてヴァーチュとヴィーナの頭にそっと手を触れた。

「ありがとう、ヒロ、ケン、ミウ。あなた達は命の恩人だ。ラクシュミーの子ども達は、私が立派に育てます・・・」

ボサツは、目を覚ましたヴァーチュとヴィーナを地面に降ろして、ヒロの両手をしっかりと握った。続いて、ケンとミウの両手を強く握った。

 

「ヴァーチュ、ヴィーナ、これからはボサツさんの言うことをよく聞くのよ」

そう言って、ミウはヴァーチュとヴィーナを抱きしめた。

「元気を出せよ、ヴァーチュ、ヴィーナ」

ケンが、二人の肩を優しくたたく。

「お母さんはラクシュミーという女神になって、君たちを見守っているからね」

ヒロが天を指差すと、二人は目に涙を溜めて空を見上げた。

 

*** ヒロ、影宇宙に戻ってサーヤを探しに行こう・・・

タリュウが影宇宙から顔を出した。みんなはボサツ、ヴァーチュ、ヴィーナに別れを告げ、竜の子ども達に乗って影宇宙に戻った。

「この後、成長したヴァーチュとヴィーナは、ボサツに連れられて古代インドの山岳地帯に移ることになる。ヴァーチュとヴィーナのずーっと先の子孫は、さらに東へ移動する。その地で、二千年後の子孫の一族としてブッダが生まれる。さらにその子孫がヒマラヤの山岳地帯へ移住して、ヒロの母さんの先祖になるんだよ」

遠くから父さんの声が聞こえた。その声の方に向かって、タリュウが影宇宙の中を下降する。

「今度こそ、サーヤの所に行けるんだね」

そう確信して、ヒロが父さんに語りかけた。

 

<第117話へ続く>

  

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