<第188話 2020.4.28>
5節 古代メソポタミアの謎
五千年前のエジプトから影宇宙に戻ったヒロ達に、シュウジの声が聞こえる。
「惑星トイの最後の指導者アンが造った魂から、古代メソポタミアの混乱を解決してほしいと要請された」
奈良の忍者学校の校長の声も聞こえる。
「惑星トイは五億年前に栄えていたシュメール惑星じゃ」
「六千年前に現れたアンの魂は、メソポタミアにいた古代人達にシュメール惑星の文明を伝えた。アンの魂は、寿命が尽きて消滅したシュメール惑星の文明を受け継ぐことのできる生物を見つけたと考えたのじゃろう」
ヒロ達は五千年前のメソポタミアに近づき、影宇宙の中から古代人達が築いたシュメール文明を観察する。
忍者学校の校長が説明を始める。
「現代の我々から見ると大した文明ではないが、五千年前の時代では最先端の文明じゃ」
「古代人は、シュメール惑星の建築、美術、宗教、社会機構、法律、医学、天文学、数学、生活慣習を学び、独自の文明を築いたのじゃ」
「あ、人口の多そうな街が見えるよ」
サーヤが見つけたのは、古代人達が築いた複数の都市国家の一つだ。
「農耕民族だった古代人達は、文明と交易を発展させて、都市国家を造ったのじゃ」
「影宇宙の中からでも、都市の中の建物や戦車が見えるよ」
好奇心の強いロンは、もっと近づいて見たいようだ。
「あの建物の名前は楔形文字で書かれておる。戦車は世界初の車つき戦車じゃ。あの建物は病院だから、あの中では白内障の手術をしていることじゃろう」
「こっちの建物は、裁判所や議事堂みたいな雰囲気ですね」
ミウが見つけた建物は、他の建物より大きく威厳がある。
「裁判には陪審員制度が取り入れられておる。議会は二院制で、現代の日本のように運営されておるぞ」
「エジプトのピラミッドのような、でも違う形の大きな塔が見えるぞ」
ケンが見つけた塔は、高さ二十メートル幅五十メートルほどの巨大な塔だ。
「あの塔は、スガワラ先生が言っていたバベルの塔に似ているけど、何をする場所だろう?」
ヒロがつぶやくと、校長の声が聞こえる。
「そこでは、天体観測を行って季節や気候の変化を予測しておる。住民はその知識を教えてもらい、科学的な農業を行っておるのじゃ」
「シュメール人は高度な天文知識や数学を知っていたって、スガワラ先生が言っていたような気がするけど」
マリが遠い記憶を思い出した。
「そうじゃ、神官達は月や惑星の動きも予想できるほどの天文学と数学の知識を修得しておる。その知識を楔形文字で記録したから、後世に残ったのじゃ」
「神官達は、季節の変化と時間の流れを教えることで都市国家の支配層になった。その基になる知識はシュメール惑星の魂から授かったのじゃ」
「シュメール惑星の文明は、現代の地球より進んでいたが、その全てを六千年前の古代人が修得することはできなかった。シュメール惑星には賢い法律と仕掛けがあったが、古代人達は、その一部だけ取り入れたんじゃ」
「例えば、シュメール惑星には、しつけと言って子供を虐待する親には、警察が子供の代わりに、親にしつけとして暴力的な罰を与えるという法律があった。虐待で殺された子供の場合は、子供に代わって警察ロボットが、殺人親の心身に耐えられない痛みを与える」
「その法律を惑星中の住民に周知し、虐待の疑いに気づいた周辺住民は直ちに警察に通報する義務があることを全住民に知らせた。通報しない場合は罰則があることも全住民に周知したのじゃ」
「しかし、メソポタミアの古代では、親が子供をしつける時に力で抑え付けるのは当たり前だったから、シュメール惑星の虐待防止法は理解されなかった」
「その代わりに、暴力を受けた被害者に代わって警察が犯人を暴力で罰するという法律を作ったのじゃ」
<第189話に続く>
(C)Copyright 2020, 鶴野 正
<第189話 2020.5.10>
5節 古代メソポタミアの謎
「忍者中学校で習った児童虐待防止法は、全国民に通報義務があるって」
ロンが言うと、ミウが応じる。
「近所で虐待の疑いがあるときは、児童相談所のホットラインに電話するって習ったよ」
「でも、悲惨な事件がニュースになっているよね」
サーヤが悔しそうにつぶやくと、ケンがサーヤの肩に手を触れる。
「それは警察が早く犯人、つまり親を逮捕しないからだよ」
「虐待された子供が死んでから、警察が犯人を逮捕したってニュースが多いよ」
マリが納得できない気持ちを口にすると、ヒロは無念の表情を見せる。
「児童相談所が子供を保護する、警察が犯罪を調べて逮捕するという法律がうまく実行されていないからだよ」
「そうじゃな、法律は出来たが警察の役割が小さいから、虐待死を未然に防げないんじゃ」
校長は説明を続ける。
「全国民に通報義務があるというが、罰則がないから普通の国民は義務と思っていないし、通報の効果がないから関わるのを避けとるんじゃ」
「一方、アメリカは同じような法律が早くから出来ておった。虐待死につながりそうな場合は警察が未然に犯罪を調べて、犯罪者を逮捕しておるのじゃ」
「通報の成果があるから、国民も積極的に通報しておるぞ」
校長の説明に納得したケンが、皆に向かって宣言する。
「俺は日本の法律を改善してから警察官になって、虐待する親を逮捕するぞっ」
「そうだね、警察が犯罪を防ぐ仕組みにすれば、虐待死を減らすことができるよ」
ヒロはケンと拳をぶつけ合った。
「ところで、ヒロとミウは仲良くしておるか?サーヤとケンはどうじゃ?マリとロンは?」
校長の話が突然変わったので、皆は驚いて声が出ない。
「まあ良い、自分達からは話しづらいじゃろう。時間がないから、かいつまんで説明しよう」
校長の楽しそうな声が聞こえていたが、急に何も見えなくなり声も聞こえなくなった。
ミウは、兄妹のように育ったケンとは違う何かをヒロに感じていた。そんな自分に気づいた時から、ヒロを最も大切な人と想うようになった。
ヒロは、幼い頃から双子の妹サーヤと生き別れて暮らした。マリはその代わりのような存在として特別な幼馴染だ。しかしヒロは、大人になったらミウと共に前に進むだろうと感じていた。
サーヤは、ケンが自分に好意を感じているのは分かっていて、優しく受け止めている。これからケンと自分が向かう方向を想像する時もある。
ケンは、サーヤに再会した時に自分の気持ちが分からなくなった。ミウに好意を抱いていたのに、サーヤにはもっと強い好意を感じていることに戸惑っている。
マリは、歌と同じようにヒロとサスケとヒショウが大好きだ。ミウがヒロを好きになっていることに気づいても気にしないようにしている。博識のロンに好意を感じ始める。
ロンは、天真爛漫のマリに対する好奇心が好意に変わり始めている。自分にない歌の才能と楽観的な精神構造に魅力を感じている。
「さて、五千年前のメソポタミアは、その五百年前の大洪水に見舞われた後じゃった。
それまでも氷河の融解による洪水が、繰り返し起きていたのじゃ」
校長の声が戻ってきた。
「古代人達は、アンの魂に教えてもらった最新技術で、複数の街を最新の都市国家に造り変えたのじゃ」
「その記憶が、ギルガメシュの叙事詩として残っておる。さらに三千年後には旧約聖書のノアの箱舟伝説になったのじゃ」
ヒロ、サーヤ、ミウ、ケン、マリ、ロンとサスケ、カゲマル、コタロウ、ハンゾウ、ヒショウは影宇宙の中を通って、四千年前の古代メソポタミアに現れる。
校長の説明が始まる。
「ヒロたち皆が、四千年前の古代メソポタミアに現れた時には、既にジゴクの魂が地方の豪族をそそのかして、シュメール人の複数の都市国家を混乱させていた」
「ジゴクの魂とは何か、それは後になれば分かること。アンの魂がシュウジに依頼したのは、この混乱を解決することじゃ」
<第190話「6節 シュメールの神々」に続く>
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