宇宙の忍者  ヒロ   2章 アトランティスからヒマラヤへ

 

<第184話 2019.10.2>

 

4節 アトランティスと古代エジプト

 

影宇宙に戻ったヒロ達は、タリュウ、ジリュウ、サブリュウ、シリュウ、それぞれの大きな口から中に入った。

 

「あれー、どうして皆同じ所にいるんだ?」

ケンが声を上げると、マリもロンも驚いた表情で顔を見合わせる。

 

「影宇宙の中で移動する間に四匹の竜達がバラバラにならないように、胴体を一つにまとめたんだよ」

サスケの口からシュウジの声が聞こえる。

 

「今度こそ、地球に戻って母さんのところに行くよ。タリュウ、急いで連れて行っておくれ」

ヒロが強い気持ちを表してタリュウに命じた。

 

「母さんは、ブッダが生きていた紀元前五百年頃のインドにいるんでしょ?父さん、詳しい場所と時代は分かるの?」

サーヤは、明確な答えを期待して、シュウジに問いかけた。

 

「ブッダは現在のインドの北部、ヒマラヤ南麓の小さな国カピラの皇子として生まれた。六十歳の頃は近隣のマガダ国とコーサラ国で教えを説いているはずだが、正確な時代は近くまで行ってみないと分からないなあ」

 

困ったような表情のサスケの口から、シュウジの声が聞こえる。

 

「ここから何億年も未来に向かって、影宇宙の中を移動するんでしょう?退屈しちゃうな」

マリが何か楽しいことを見つけようと、みんなの顔を見る。

 

「じゃあ移動中に、ラクシュミーとブッダのことを説明しておこう」

また、サスケの口からシュウジの声が聞こえる。

 

「ヒロとサーヤの母さんの名前はエミリという。ラクシュミーはエミリに、ブッダはラクシュミーの子孫だと教えた。そして、エミリはブッダの子孫であることも教えた」

 

マリはサーヤに笑顔を向ける。

「サーヤはラクシュミーとブッダの子孫だから、すごい治癒能力があるんだね。私を助けてくれて、ありがとう」

 

「ブッダはラクシュミーの子孫だから、人々が苦しんでいる時に治癒能力を得て人々を助けたんだ」

シュウジが話を続ける。

 

「エミリがブッダの時代に現れた時、ブッダは60歳だった。ラクシュミーがブッダに、エミリは遠い未来から来たブッダの子孫だと教えたので、ブッダはエミリから未来の状況を教えてもらった。そのことがブッダの悟りや教えに役立っている」

 

サスケの口から聞こえていたシュウジの声が、途絶えた。

 

しばらくして、シュウジの声がまた聞こえた。

「今、惑星チイの魂から、超古代エジプトの人達を助けてくれという要請があった」

 

それを聞いて、ヒロが困惑した表情でシュウジの声に問いかける。

「そんなことしてたら、母さんの所に行くのが遅くなっちゃうんじゃ無いの?」

 

「大丈夫だ、ヒロ。奈良を出発した時に合わせて影宇宙から戻ればいいんだよ」

シュウジの声を聞いて、ケンがみんなを見渡して言った。

 

「よし、みんな、超古代のエジプトの人達を助けに行こう」

 

<第185話に続く>

 

(C)Copyright 2020, 鶴野 正

 

 

<第185話 2020.1.9>

 

4節 アトランティスと古代エジプト

 

 

「待て、ケン。助けるって、誰を助けるのか、分かってるのか?」

ヒロは、今にも影宇宙から飛び出そうとしているケンを座らせた。

 

「そうよ、まだ地球に戻っていないのよ」

ミウが厳しい表情でケンを見つめる。

 

「父さん、超古代エジプトの人達って、いつ頃のどんな人達なの?」

サーヤがサスケの口元に向かってたずねる。

 

「アトランティスが一万千四百年前に海中に消えた後、アトランティスの古代人達はアフリカ大陸とメソポタミアの沿岸部に移動していった。そのアフリカに移動した人達の子孫がエジプトに国を造った」

 

サスケの口からシュウジの声が聞こえる。

「その国の国王を助けてほしいそうだ。今から八千年前のエジプトだよ」

ケンがヒロを見て大きくうなづいた。

 

その時、竜の胴体の奥から奈良の忍者学校の校長の声が響いた。

「こんなにゆっくり物語を進めていては、わしが生きている間に最終話が完結しないぞ」

皆が驚いていると、校長の声が竜の胴体の奥から響いて来る。

 

「ヒロ達は影宇宙の中を通って、八千年前のエジプトに現れる。

そこに国王のラーがいた。ラーは小国アトの国王じゃった。

小国アトは、アトランティスから逃れて来た人々が造った国じゃ」

 

「八千年前にエジプトにいた古代人達に惑星チイの魂が啓示を与えて、スフィンクスを築かせた。

古代人達の中で最も良く啓示を理解したラーが小国アトの国王になったんじゃ」

 

「ラーはアトランティス王家の末裔で、アトランティスの文明や歴史を伝説として知っていた。

ラーは、惑星チイの魂の啓示とアトランティスの伝説を合わせたものをスフィンクスの中に隠した。」

 

「惑星チイには、ヒロたちが訪れる前に驚くべき歴史があった。

惑星には数多くの国家があったが、少数の強国が覇権争いをしてどの国の国民も幸せではなかった」

 

「宗教の力で国家の枠を超えてまとまったりした時代もあったが、その宗教を原因として争ったりしていた。

原子力兵器や生物兵器などの恐怖による国家間の支配関係も長くは続かなかった」

 

「ある時、ある弱小国の中で国民の考え方を変える技術が発明された。それは薬品や催眠術などではないぞ。

その技術によって、国内の政治的な争いがなくなり国家としてまとまった」

 

「その近隣諸国もその技術によって、自ら望んでその一つの国に統合された。

強国も最初は反目していたが、その技術によって国民の考え方が変わり、最終的に惑星上の全ての国家が統一されて、国家という概念が消えた」

 

「惑星チイの人々は、国家という概念が消えた自分達の惑星をスフィンクス惑星と呼んだ。

考え方を変える技術とはよくわからないが、国民自身が常に他人や国民の将来を想像して適切に行動することが最も重要だという考え方になることのようじゃ」

 

「さて、ラーが国王になる千年以上前の超古代エジプトには数十の小国が争いながら存在していた。

長い歴史の間には互いに侵略、支配、被支配を繰り返したこともあった」

 

「それぞれの国の王は、実権を握っている時代もあれば、臣下の一族が実質的に支配している時代もあった。

有力な国は他の小国を支配して、いくつかの大国が造られていった」

 

「アトの中では、国民を豊かにするために、近隣の小国を併合するという軍隊の指導者たちが国王から実権を奪って、百年前にチスという小国を併合した。

さらに国土の広いキチの大半を支配し、すでにいくつかの大国に支配されていた小国をアトの支配下に治めたのじゃ」

 

<第186話に続く>

 

(C)Copyright 2020, 鶴野 正

 

 

 

<第186話 2020.131>

 

4節 アトランティスと古代エジプト

 

 校長の話が途切れないので、ヒロが質問する。

「国家という概念が消えて惑星の住人が平和になるって、すごいことですね。その知恵もスフィンクスの中に隠されているんですか?」

 

「多分、隠されていると思うが、探してみないと分からんな」

そう言って、校長は話を続ける。

 

「しかし、大国になろうとするアトといくつかの大国が戦争になり、敗れたアトは大国リカに支配されたんじゃ」

 

「復興国キチは小国チスを侵略したが大国リカが阻止したため、キチとリカは小国チスをチョキとチョカに分割してしまった。

チョキは新興大国キチと、チョカは大国リカと同盟国になることで、生き延びたんじゃ」

 

「小国チョキとチョカの国王たちは、新興大国キチと大国リカを恨んでいるが、何もできない。数年後には敗戦国アトが大国リカの同盟国として復興した」

 

「小国チョキとチョカの国王たちは、アトに対する恨みを晴らすために国民を扇動し始めた。

その扇動によって、小国チョキとチョカの国民は、百年以上もアトを恨み続けているのじゃ」

 

「国王のラーは自分で区切りをつけたいと決意した。しかし、百年前のアトの神官マツが、戦争犯罪者として処刑された軍人達を軍神として神殿に祀ったことが事態を複雑にしている」

 

「その神殿にアトの政治家達が参拝するたびに、小国チョキとチョカの国民は恨みを募らせておる。しかしアトの中では、戦犯として処刑された軍人達の末裔の多くが、神殿に祀っていてほしいと思っているのじゃ」

 

「ラーの時代になると、大国リカは力が衰えて自国の利益を確保することに躍起になり、アトの支援をできなくなった。

その機を逃さず、新興大国キチが小国チョキとチョカの国民を扇動して、アトの国境の街を侵略し始めたんじゃ」

 

「アトは百年前の敗戦によって軍隊を持たない国になったので、侵略に対抗するため急遽自衛軍を組織した。ラーはその自衛軍を指揮して侵略軍に立ち向かったが、殺されそうになる。

そこに影宇宙からケンとヒロが現れて侵略軍を追い払うんじゃ」

 

じっと校長先生の声を聞いていたケンが、笑顔をみせる。

「やっと、俺の出番がまわってきたぞーっ」

 

一息ついた校長が、また話し始める。

「しかし、自衛軍の内部で対立が起こる。神殿に祀った戦犯を神殿から各自の遺族の墓に移すというグループと、その動きを阻止するグループの対立じゃ」

 

「どちらのグループもラーを取り合って、内戦に発展する。

そこで、ヒロとケンが双方を説得して、戦犯を各自の遺族の墓に移すことにするんじゃ」

 

「その後、小国チョキとチョカの国民が恨みの攻撃対象を見失ったので、アトに束の間の平和が訪れた」

 

「ヒロ達は、スフィンクスに隠されたアトランティスとスフィンクス惑星の叡智をラーに見せてもらう。しかし、高齢になったラーの後継者争いで内乱が起こり、ヒロ達は影宇宙に逃れることになるんじゃ」

 

<第187話に続く>

 

(C)Copyright 2020, 鶴野 正

 

 

 

<第187話 2020.3.27>

 

4節 アトランティスと古代エジプト

 

「ヒロ達6人と犬、猫、猿、鳥、象が影宇宙の中を通って五千年前のエジプトに現れた時には、気候変動によって付近が砂漠化しておった。ということは、アトの国王ラーの時代にはスフィンクスの周りは緑に覆われていたということじゃ」

 

校長の話は、さらに続く。

「五千年前のエジプトには、スフィンクス文明に基づいて、多様な人種の混血によるエジプト文明が繁栄していた」

 

「八千年前、アトの国王ラーの後継者争いに敗れた人々はスフィンクスの地を離れ、エジプトの各地に分散して行った。彼らはそれぞれの土地で王国を造り、栄枯盛衰を繰り返していたのじゃ」

 

「六千年前には、トガル、エスパが各地と交易を行い勢力範囲を拡大していたが、軍事力を増強したランス、ギリスが競って周辺国を支配し始めた」

 

「一方、今ではルクソールと呼ばれる地域に繁栄していた大国スマンに衰えが見え始めた。

その支配地域は広大で、ナイル川の恵みによって豊かな農地が広がっていたのじゃ」

 

「トガル、エスパの後に勢力を拡大したギリス、ランス、ジャーマは、大国スマンの支配層を懐柔しつつ、スマンの広大な領地を徐々に植民地化して行った。さらに、アトの時代から続く古い国プスブ、後発国ソロシ等も衰退した大国スマンの豊かな領土に進出した」

 

「争いを避けるために、ギリス、ランス、ソロシは三国同盟を結び、広大なスマンの領地を自分たちの都合の良いように分割することを勝手に決めた。しかし、その領地には多様な部族がそれぞれの地域に居住しており、三国同盟が勝手に決めた領地分割によって、将来、部族同士が争うことになってしまうのじゃ」

 

「ついに、ギリス、ランス、ソロシがジャーマ、プスブと衝突し、全面戦争に突入した。ジャーマとプスブはスマンの一部だったトルンの協力を得て戦力を増強した」

 

「一方、ギリスとランスは広大なスマン領土各地の部族に将来の領地譲渡を約束して戦力を強化した。さらにギリスは、放牧民として自国を持たず戦闘力に優れたダヤ族にも領地譲渡を約束して協力させたのじゃ」

 

「そして、全面戦争が集結したが、戦勝国のギリス、ランス、ソロシは、多数の戦死者を出して疲弊してしまった。そこに、領地譲渡を約束したスマンの各部族とダヤ族から約束を果たすように迫られた」

 

「ところが、ダヤ族に譲渡する地域はスマンのある部族に譲渡すると約束した地域と同じ地域だった。さらに三国同盟が勝手に決めた分割線は、スマンの各部族に争いをもたらしたのじゃ」

 

「自分たちが引き起こした問題を解決できなくなったギリスやランスは、全ての国々を集めて相談し、ダヤ族とスマンの部族に約束した土地を折半するように決めた。そんな解決策はどちらも納得できず、ダヤ族とスマンの各部族の戦争が始まったのじゃ」

 

「それはひどい!ギリスは無責任すぎる」

ヒロとケンが同時に声をあげた。

 

「そのとおりじゃ。しかも戦闘力に優れたダヤ族は、約束された土地の大半を武力で獲得してしまった。その後は、ギリス、ランス、ソロシ、ジャーマ、さらに新大国エスエが、ダヤ族、スマンの各部族をばらばらに支援したので、混乱した紛争状態が100年以上続くことになったのじゃ」

 

サーヤ、ミウ、マリがため息まじりにつぶやいた。

「五千年前も今と同じような悲惨なことがあったのか」

 

「目の前のことだけ見て争うのは愚か、広い視野で真の敵に勝利せよ、ということだね」

ロンが悟ったようなことを言う。

 

「自分が当事者なら、わかっていても実行するのは難しいぞ。さて、皆は五千年前のエジプトから影宇宙に戻るのじゃ」

 

<第188話「5節 古代メソポタミアの謎」に続く>

 

(C)Copyright 2020, 鶴野 正

 

 

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