宇宙の忍者 ヒロ     1章 5節

 

 

<第46話>

 

5節 古代インドのモヘンジョ・ダロ

 

ミウ、ケン、スガワラ先生は、カゲマル、コタロウと共に、三匹の竜から降りて、街のはずれの小さな岩山の洞から出てきた。

 

三人は岩山の頂上に登って、街全体を見渡した。

「これは・・・インドのモヘンジョ・ダロだ!うーん、四千五百年前のモヘンジョ・ダロだーっ!」

スガワラ先生が興奮して叫んだ。

 

その声が、街に向かって歩いていたヒロとサスケに聞こえた。

「サスケ、あれはスガワラ先生の声じゃないか?」

サスケは自信を持ってワンと応えた。

 

すぐにヒロは、サスケと一緒に岩山に向かって引き返した。

「あーっ、あれはヒロとサスケじゃないの?」

遠くから走ってくるヒロとサスケを見つけたミウが、跳ぶようにして岩山を駆け下りた。

 

ケンは岩山の頂上からヒロに向かって叫んだ。

「おーい、ヒロー!俺たちも一緒にサーヤを捜すぞー!」

 

「おーっ、ミウ、ケン、それに、スガワラ先生!」

岩山の下まで戻ったヒロは、みんなが来てくれて嬉しかったので宙返りしてみせた。

 

「ヒロ、どうして先に行っちゃったの?みんな心配してたんだよ・・・」

ミウは、ヒロの頭をコツンとたたいてほほ笑んだが、目が潤んでいる。

 

「サーヤのいる場所は、分かっているのか、ヒロ?」

岩山から下りて来たスガワラ先生が、ヒロの肩に手をおいて話しかけた。

 

「過去のインドの山奥にいるはずなんだけど、詳しいことは分からないんです。この街に出て捜したらサーヤの居所が分かるかも知れないってサスケが言うから、影宇宙から出たんです」

 

「ヒロが詳しいことを知らないのに、どうしてサスケがサーヤを捜せるんだい?」

ケンはそう言いながら、ヒロとスガワラ先生の顔を交互に見た。

 

すると、サスケがワンと吠えて、街に向かって歩き出した。

 

「影宇宙の中にいるシュウジが、サスケを誘導しているんじゃないか?とにかく、古代インド人の家族に変装して街に入ろう。俺が父親、ケンは大きいから長男、次がミウで、ヒロは末っ子ということにするぞ」

 

スガワラ先生は三人の顔を見ながら、古代インドの中年男に変装した。

「先生、どうして僕がミウの弟なんですか?」

 

「ヒロよりわたしの方が大人に見えるからよ」

三人もそれぞれ変装して、サスケの後を追って街に向かった。

 

「向こうの丘の上に、立派な神殿が見えるぞ。あそこには二千年後の仏教時代に、ストゥーパが建てられたんだ」

スガワラ先生が指差す先に、ギリシャのパルテノン神殿に似た大きな神殿が見えた。

 

「街を囲む城壁の工事をしてますね。もっと高くするみたいだなあ。しかも分厚く」

ヒロは街の治安状況が気になったが、誰にも止められずに城門を通って街の中に入ることができた。

 

「道路が舗装されていて綺麗!建物もレンガ造りで素敵!」

ミウの目には、街の道路や建物が近代的で素晴しいものに見えた。

 

すれ違う人々の服装は質素だが、清潔でセンスがいい。

街の中心に近づくにつれてにぎやかになって来た。

 

<第47話へ続く>

  

(C)Copyright 2012, 鶴野 正

 

 

<第47話>

 

「あそこに、野菜や果物の市場があるよ。人がいっぱいいるなあ」

 

ケンが先頭になって、人ごみをかき分けて進んで行く。

みんなも人ごみに苦労しながらついて行った。

 

「芋、葉野菜、大根、人参、トマト、キノコ類・・・今と同じ野菜が昔からあったんだね」

「イチジク、ブドウ、梨、みかんもあったのか」

 

ミウとヒロは、美味しそうな果物を見て空腹を感じた。

スガワラ先生も空腹なのか、財布からお金を出そうとしている。

 

「地方からこの街に出て来た者達だな。あっちの役場に行って、先に手続をして来なさい」

 

市場の中の穏やかそうな初老の男がスガワラ先生達を見て、地方から出て来た家族と思ったようだ。

この街は、地方から移住してくる人々で人口が増えている。

 

「あっちの役場ですか・・・ありがとう。みんな、あっちへ行こう」

スガワラ先生は我に返った。財布から現代のお金を出していたら、怪しまれただろう。

 

丘の上の神殿に向かって少し上っていくと、なだらかな丘の中腹にレンガ造りの役場があった。

後を振り返ると、下の方にさっきの市場があり、左の方には広い沐浴場が見える。

 

縦横に整然と走る道路には人々が行き交い、堅固な城壁に守られたこの街には活気があふれている。

 

「この古代都市の周囲は五キロ、人口は三万人くらいだろう。やはり四千五百年前の絶頂期だと言って間違いない」

スガワラ先生は、満足そうに街を見下ろした。

 

みんなが役場の中に入ると、案内係の中年の女が声をかけて来た。

「この街に住みたい人達ですか?じゃあ、あの扉の向こうに行ってください」

 

言われた通りに扉の向こうに行くと、手続を終えた三人家族に、役人が新しい住居の場所を教えていた。

三人家族が部屋を出て行くと、役人はこちらを向いて声を掛けた。

 

「あなた達もこの街に住みたいのですか?どんな仕事ができますか?」

役人は、薄いベージュ色の服を着た大きな目の中年の男だ。

 

「学校の先生、建物の修理、城壁の工事など、いろいろなことができますよ」

スガワラ先生が答えると、役人は驚いたように大きな目をさらに大きくして質問した。

 

「学校の先生だって?地方から来たあなたが、この街の子供達に何を教えられるのか?」

スガワラ先生が一瞬プライドを傷つけられたような顔をしたので、ヒロがとっさに話しかけた。

 

「お父さんは僕たちの街では尊敬されている先生だけど、こんなすごい街ですぐに教えるのは大変なんじゃないの?」

 

「そうか、あなたは学校の先生だったのか。これは失礼した」

役人が頭を下げて謝ると、スガワラ先生は気を取り直して話を戻した。

 

「いやいや、とんでもない。あの、そうですね・・・今、城壁の工事が行われているので、私も工事の仕事をしたいと思います。子供達も手伝えますので」

 

「あー、それなら城壁工事の仕事をお願いしよう。最近は物騒な噂が広まっているから、城壁をもっと高く頑丈にしなくてはいけない」

 

役人が何気なく口にした言葉を聞いて、ミウが不安そうな表情をして質問した。

「あのー、その物騒な噂って、どんな噂ですか?」

 

すると、役人は余計なことを言ってしまったと後悔した。

「アンコクと呼ばれる地方の独裁者がこの都市を攻撃するという噂なんだが、誰にも言ってはいけないよ。何も知らないお年寄りや子供達を不安がらせてはいけないからな」

 

「分かりました。誰にも言いませんよ。子供達も誰にも言いません」

スガワラ先生が答えると、三人の子供達も役人の顔を見てうなづいた。

 

納得した役人から、移住者用の住居の鍵をもらった四人は、役場を出て住居に向かった。

 

<第48話へ続く>

  

(C)Copyright 2012, 鶴野 正

 

 

<第48話>

 

「アンコクって、ヤミと同じ暗いイメージだよな」

役場を出て坂を下りながら、ケンがミウに話しかけた。

「そうね、アンコクとヤミって何か関係があるんじゃないかな、ヒロ」

ミウがヒロの顔をのぞき込むと、サスケが先にワンと答えた。

「関係があるかもしれない。だけど、古代インドでアンコクっていう言葉が暗いイメージなのか分からないよ」

ヒロが慎重に答えると、スガワラ先生はもじゃもじゃ頭をかきまわしながら言った。

「まだ分からないことだらけだが、アンコクもヤミも我々の敵に違いない。きっと成敗してやるぞ、ヤミー、アンコクー!」

興奮したスガワラ先生の声が大きくなったので、ミウが慌てて先生の口をふさいだ。

 

移住者用の住居は、広い沐浴場と城壁の間にある。その場所には古い城壁があったが、数十年前に取り壊されて、そのかなり外側に新しい城壁が造られていた。人口が増えると城壁を外側に広げるということを、数十年おきに繰り返してきたようだ。

「特に怪しまれず、なんとか移住者用の住居に入れることになったな」

スガワラ先生は、ほっとした表情で子供達に言った。ミウはカゲマルと一緒に住居の中を調べている。

「台所とお風呂に水道があって、トイレは水洗トイレ!大昔なのに便利な家だね」

「地方から移住してくる家族のためにこんな家を貸してくれるなんて、親切な街だなあ」

ケンとコタロウも住居の中を見て感心している。ヒロも住居の設備に感心したが、サスケを連れて、早くサーヤのいる場所を捜しに出かけたかった。

「先生、サスケと一緒にサーヤを捜しに行ってきます」

「待ってよ、ヒロ。わたしも一緒に行くから」

ミウが慌てて、カゲマルを連れてヒロの後を追いかけた。続いて、ケンとコタロウも住居を飛び出した。

「おーい、俺だけ置いて行くなよー、ミウ」

ヒロは、サスケがどこに向かうのか知らない。しかし、サーヤを捜すためにはサスケの後について行くしかない。

 

「年寄りや貧しい若者に食糧を与えろよ!兵隊を増やすより、市民の生活の方が大事だろ!」

「まあまあ、落ち着け。こんなに豊かで便利なこの街で、誰も飢え死になんかしないよ。この街を守る兵隊が足りないと、大変なことになるぞ」

街の中心にある市場で、言い争いをしているようだ。そこに向かってサスケが歩いて行く。

「大変なことって、どんなことだ?誰かがこの街を攻撃するとでも言うのか?」

「そんなことはないが、もしもの場合に備えておくことも大事なんだよ。三十年前に、地方の独裁者がこの街を攻撃してきたことを忘れたのか?」

さっきスガワラ先生に声を掛けた穏やかそうな初老の男が、目つきの鋭い痩せた若者に反論していた。この都市の市長選挙が数日後に行われるので、あちこちで市民達が議論しているらしい。

 

<第49話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第49話>

 

「おじさん、この辺でサーヤっていう女の子に会ったことはないですか?」

早くサーヤのいる場所を知りたいヒロが、初老の男に声を掛けた。

「やあ、さっきの子供だな!サーヤっていう女の子かあ。聞いたことがないなあ。お前の家族かい?」

「そうです。僕の妹なんです。双子だから僕と同じくらいの子供です」

ヒロが回りの市民の反応を見たが、誰も思い当たることがないようだった。

「サーヤっていう女の子がいないか、毎日みんなに聞いてあげるから、元気をだせよ!ところで、この街を守る兵隊を増やすことが大事だって、父親に言っておくれ」

初老の男は、ヒロを励ますつもりで話しかけた。

「あー、分かりました。でも、今言っていた三十年前の地方の独裁者って何ですか?」

 

何気なくヒロが質問すると、初老の男は得意げに説明し始めた。

「あの丘の上の神殿にはゴータマの神が祭られている。ここはゴータマ神に守られた慈愛に満ちた都市だ。市民同士で戦争をすることはなく、選挙によって市長や議員を決める。市長や議員は市民のために働くが、意見が一致しないこともある。なかなか決まらないことが多いから、不満を持つ市民もいる。三十年以上前のことだが、この都市に不満を抱いて出ていった若い男が、東の方の田舎で急に人気者になった。田舎の人々が困っている問題をどんどん解決して、人々の心をつかんだんだ。その田舎に人々が集まって来たので、小さな都市になった。そこの市民は、その若い男が何でも解決してくれるから全てを任せるようになったんだ。その若い男に反対する者は警察に捕らえられるので、何事も早く決まったそうだ」

「その若い男が、三十年前の地方の独裁者なの?」

ミウが興味を持って質問をした時、役場にいた目の大きな中年の役人が横を通りかかった。今度は初老の男に代わって、目の大きな中年の役人が説明を始めた。

「この都市に不満を持っていた者達が小さな都市に移住したりしたから、そちらの人口が増えたんだ。若い男は、熱狂的な市民を煽動して兵隊をどんどん増やして、本当の独裁者になってしまった。その独裁者は、小さな都市のやり方を我々の都市に持ち込もうと考えて、この都市を兵隊に攻撃させたんだ」

 

「その独裁者は何と呼ばれていたんですか?」

ケンは、さっき聞いたアンコクという独裁者と同じ名前なのか知りたいと思った。目の大きな役人が躊躇したので、初老の男が代わって大きな声で答えた。

「そいつは、アンコクって呼ばれていたよ。変な名前だが、百年以上前にも同じ名前の独裁者が、この都市を攻撃して来たそうだ。その時も三十年前と同じように、我々の兵隊が独裁者達を撃退したんだ。だから、兵隊を増やすことが大事なのさ」

話を聞いていた大勢の市民が、アンコクという名前を聞いて不愉快そうな表情に変わった。

 

<第50話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第50話>

 

「最近、アンコクという独裁者が攻撃してくるという噂を聞いたぞ・・・」

「今度は、南の方からやって来るという噂だ・・・」

「何か、ものすごい武器を作っているらしいが、ほんとうか?」

数人の市民が、ヒソヒソと怯えた声で話をしている。そこに、ヒロ達の後を歩いて来たスガワラ先生がヌッと顔を出した。

「ヒソヒソと何の話をしているんですか?」

「ウワッ、あんたは誰だ?見たことのない顔だな!どこから来たんだ?」

初老の男と議論していた目つきの鋭い痩せた若者が、スガワラ先生を怪しい移住者と決めつけた。周りにいた大勢の市民が、スガワラ先生を見て騒ぎ出した。

「何を調べに来たんだ?」

「アンコクの手先じゃないのか?」

「その犬や子供達も怪しいぞ!」

とっさにサスケが、目つきの鋭い痩せた若者に飛び掛り、着ていた服の肩の部分を食い破った。若者の肩が現れると、その肩を見て周りの市民達が叫んだ。

「アッ、こいつがアンコクの手先だ!」

「肩に真っ黒な大男の刺青があるぞ!」

しかし、アンコクの手先は一人ではなかった。痩せた若者と一緒にいた数人が、サスケとスガワラ先生に殴りかかったので、周りにいた大勢の市民がサーッと逃げた。すぐにサスケは大きくジャンプして、アンコクの手先の頭上を越えた。同時に、ケンがアンコクの手先の一人を跳び蹴りで倒し、スガワラ先生の側に来て一緒に戦った。

「おじさん、早く警察を呼んでください!」

ミウが、カゲマルを抱きかかえて、初老の男に大きな声で頼んだ。

 

アンコクの手先は全部で九人いた。

「忍術を使って全員を倒してしまうと、大勢の市民に恐れられるぞ」

スガワラ先生は、忍術を使わないようにケンに注意した。

「了解!じゃあ、こうしましょう」

ケンは、アンコクの手先三人の胸に次々と拳を突いて気絶させた。

「オオーッ、この少年は強いぞ!」

見ていた大勢の市民が歓声を上げた。そこでコタロウが、ケンの真似をしてアンコクの手先を拳で突いた。しかしコタロウは逆襲されて、スガワラ先生の後ろに逃げた。とっさにスガワラ先生が、相手の男の襟をつかんで放り投げた。残る四人の男達は、小柄なヒロに襲いかかろうとした。

 

 

<第51話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第51話>

 

「おっと、ここは闘わずに逃げた方がいい!」

ヒロは、サスケと一緒に丘の上の神殿に向かって走った。

「待てえー、逃げるなー!」

叫びながら、アンコクの手先がヒロの頭を狙って石を投げる。

「ウッ、痛い!」

ヒロの後頭部から赤い血が流れ出し、ヒロは前のめりになって倒れた。

「大きな石がまともに当たったぞ。あの少年は大丈夫か?」

頭に石が当たる様子を見ていた市民達が、心配してヒソヒソと話している。

「俺たちはあの犬を捕まえるから、お前たちはその子供をやっちまえ!」

アンコクの手先が二人ずつに分かれた。心配してヒロの顔をのぞき込んでいたサスケは、二人の手先に向かって激しく吠えた。

「生意気な犬だ。これでも食らえ!」

アンコクの手先が、また石を投げたが、サスケは身をかわして横道に逃げた。

 

「アレッ、こいつの血が止まってるぞ。気がつく前に思いっきり殴っておこうぜ」

アンコクの手先二人がヒロに近づいてきて、血に染まった髪の毛をつかもうとした。

「後から石を投げるなんて、卑怯じゃないか!」

すばやく起き上がったヒロが、赤い血まみれの顔で二人の男を睨んだ。

「ウワッ、なんでこんなに早く回復するんだ?」

男達は驚いて、一瞬後ずさりした。ヒロは、サスケがいなくなったことに気づいて、大声でサスケを呼んだ。

「サスケー、どこにいるんだー?」

丘の上の方からサスケの声がする。ヒロは、男達を突き飛ばし、丘の上に向かって駆け出した。サスケが丘を駆け下りてくる。ヒロが坂道を上り始めた時、サスケを追って来ていたアンコクの手先が、横から飛び出した。

「待て、コラー!」

アンコクの手先は、ダイビングしてヒロの足にタックルした。

「アッ、危ない!」

ヒロが前に倒れる時に、サスケを突き飛ばしてしまった。そのはずみで、道の脇にあった井戸の中にサスケが落ちて行った。

「コラー、アンコクの手先ども—っ、逃げるなー!」

十人以上の警察官が、四人のアンコクの手先を追って近づいて来る。手先たちはバラバラの方向に分かれて逃げて行った。

 

<第52話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第52話>

 

「クーン、クーン」

「サスケー!大丈夫かー?今、助けに行くから待ってろよー」

サスケの声が響く暗い井戸の中をのぞき込んで、ヒロが叫んだ。

「ヒロー、大丈夫だったのー?頭が血まみれだけど、もう痛くないの?」

カゲマルを連れて、ミウが駆け寄って来た。ミウはポシェットからタオルを出して、ヒロの顔や頭を拭いている。その後から、ケンとスガワラ先生がコタロウを連れて走って来た。井戸の中をのぞいているヒロを見たスガワラ先生が、懐から長い縄を出して渡した。

「ヒロ、この縄を体に巻いて井戸の中に下りろ。ここで、俺とケンが縄を引き上げるから」

「先生は必要なものを何でも持っていますね」

ヒロは、先生に感謝して暗い井戸の中に下りて行った。サスケが犬かきをして水面から顔を出している。

「サスケ、どこも怪我していないか?」

ヒロがサスケを抱いて上に向かって合図をすると、縄がゆっくりと引き上げられた。井戸から出て来たサスケをヒロから受取って、ミウがサスケの体をあちこち調べた。

「あー、良かった。どこも怪我していないね、サスケ・・・あれ、サスケが何かをくわえているよ」

ミウは、サスケが緑色に光るものをくわえていることに気づいた。それは、井戸の底に沈んでいた古いヒスイの玉だった。

「これは、この時代より前に造られた高価なヒスイの玉だ。この地域では採れないから、ヒスイは貴重品だ。おそらく、この都市の神官か市長の家族が持っていたのだろう」

スガワラ先生が、着ている服の袖で古いヒスイの玉を磨いているうちに、とろりとした透明感のある美しい緑色の玉になった。

 

「先生、なんだか空が暗くなってきましたよ」

ケンが空を見上げて言った。先生は、月が太陽を隠そうとしている様子を見ている。

「皆既日食じゃないかなあ・・・鳥たちが騒いでいるぞ」

「だんだん暗くなってきた・・・市民達が丘の上の神殿に向かってお祈りしているよ」

ヒロは、市場にいる大勢の市民がゴータマ神に祈っているのだと思った。神殿の上に見えた太陽がすべて月の陰に隠れて地上が暗くなった直後に、太陽の光が一ヵ所だけ漏れ出て輝いた。

「あっ、ダイヤモンドリング!すっごく、きれい!」

ミウが、あまりの美しさに感動して声をあげた。しかし、大勢の市民は皆地面にひれ伏して祈り続けている。ヒロがヒスイの玉を空に向けると、まだ暗い空から太陽の光がヒスイの玉に届いた。その光が緑色に輝き空に向かって反射した時、四匹の竜が天から顔を出した。

*** 早く、市民たちが気づかないうちにおいらの背中に乗って!・・・

 

<第53話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第53話>

 

タリュウがヒロとサスケを乗せて影宇宙に戻った。兄弟のジリュウはミウとカゲマルを乗せ、サブリュウはケンとコタロウを乗せた。最後に、シリュウがスガワラ先生を乗せて影宇宙に戻ろうとした時、大勢の市民達が恐怖の叫び声をあげるのが聞こえた。市民達は空を見上げて騒いでいる。その視線の先にはオレンジ色に輝く飛行物体があった。その飛行物体はまっ赤な火炎を噴射しながら、もの凄い轟音とともにこの都市に向かって近づいている。

 

「あれは何だ?」

スガワラ先生は、とっさにシリュウから飛び降りた。

「ヴィマナという飛行機に似ています!先生、マハーバーラタとラーマーヤナに書かれた神々の戦争シーンに出てくる恐ろしい飛行機ですよ!」

ミウがジリュウから降りて、先生の後ろに立った。

「もしかしたら、飛行機からアグネアの矢が投げられて、この都市の古代人達は死んでしまうかもしれない。モヘンジョダロの近くで核爆発があったらしいじゃないですか!」

ケンもサブリュウから飛び降りて、スガワラ先生に訴えた。

「核爆発があれば、放射能でこの都市の人達は死んでしまう!みんなを建物の中に避難させなくちゃあ!」

ヒロがタリュウから飛び降りて、丘の上の神殿に向かって全速力で駆け出した。

「みなさーん、早く近くの建物の中に隠れてくださーい!灰が空から降ってきたら・・・・・」

神殿の前でヒロが大声を上げたときに、飛行物体がモヘンジョダロの郊外に激突した。その衝撃で地面が激しく揺れる。続いて火山が噴火したような火柱が上がり、ものすごい轟音が聞こえた。

「キャー!助けてー」

「うわー!早く逃げろー」

「あーっ、もうダメかもしれないー!」

丘の中腹の役場に逃げ込む者や、近くにある自分の家に逃げ帰る者達で、大混乱になった。

 

「あっ、空を見ろ!また飛行物体が来るぞー!」

ケンが空を指差して大声をあげると、丘を駆け上る者達と駆け下りる者達がぶつかったり、転倒したりして大勢のケガ人が出た。

「ケガした人達を役場に運んでー!」

ミウがケンとヒロに向かって叫ぶ。ケンとヒロが数人のケガ人を支えて役場に運ぶと、他のケガをしていない市民達も大勢のケガ人を助けて役場に運んだ。

ミウが役場の中に入ると、大勢のケガ人で混雑している。

「忍者の薬草を少し持ってきたから、少しずつみんなに飲ませて!」

「ぼくも薬草を持ってきたから、手分けして飲ませよう」

ヒロが懐から薬草を出すと、ケンとスガワラ先生も薬草を出した。

「足が痛い、痛い・・・」

「胸が痛くて、苦しい・・・」

ミウ達は、血を流して座り込んでいる者や、苦しそうに横になっている者達に薬草を少しずつ飲ませた。

 

<第54話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第54話>

 

「そうだ、さっきの飛行物体はどうなったんだろう」

ケンが慌てて役場の外に出て空を見上げた。空には炎の形をした大きな飛行物体が浮かんでいる。

「あれは大きな炎のように見えるけど、オレンジ色の飛行物体が数十機集まって炎の形を作っているよ」

目のいいヒロが説明すると、空を見上げてミウが言った。

「さっき地面に激突した飛行物体の仲間が上空をゆっくり旋回しているみたいに見えるよ」

「あの飛行物体には、操縦士が乗っていない!なのに、数十機がまとまって地球から離れようとしている」

ヒロには千里眼の能力が備わったのか、飛行物体の中まで見えてきた。

 

「あーっ、あの飛行物体は宇宙のどこかの惑星から放射能廃棄物を積んできた小型宇宙船だ。放射能が安全なレベルに下がるまで宇宙を放浪しているらしい」

信じられないことをヒロがしゃべり始めたので、ケンが慌てて遮った。

「どうしてそんなことが分かるんだい?ヒロ!」

「あの飛行物体の方から、そんな声が聞こえてくるんだよ。他の惑星に衝突しないように宇宙船を運転してきたけど、一つの宇宙船が制御不能になったそうだ。何か外部から強い力が働いたから、一機が古代都市の近くに衝突したと言っているよ」

ヒロは、ますます信じられないことを話し始めた。

 

「それはアンコクの仕業じゃないの?」

なぜかミウはそんな気がして、ヒロの顔を見た。

「きっと、そうだよ!でも危険な放射能廃棄物を、どうやってその惑星から発射させたんだろう?」

そう言ってケンが空を見上げると、スガワラ先生が口を開いた。

「この前の授業で教えた重力操縦羽と同じ原理だよ。その惑星には、重力を自由に制御できる技術があるから、危険なものでも宇宙船に乗せて発射できるんだよ」

「でも、そんな技術があるんだったら、その惑星の太陽に向かって放射能廃棄物を発射すればいいんじゃないの?太陽はいつも核爆発しているんだから」

ミウは宇宙のことを少し知っているが、スガワラ先生はその惑星の文化を推測して答えた。

「確かにその太陽に放射能廃棄物を放り込んでもいいが、その惑星の人達は自分達の太陽を汚したくなかったんだろうな。自分達の太陽とその周りを回っているいろんな惑星が汚れないよう、10万年以上宇宙を放浪するように宇宙船を発射させたんだと思う」

 

<第55話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第55話>

 

「じゃあ、あの宇宙船はまとまって地球から離れていくんだな」

ケンが空を見上げてつぶやくと、ヒロが落ち着かない表情で応えた。

「宇宙船は、また宇宙を放浪するつもりだけど、アンコクが強い力で妨害するかもしれない。でも僕達はどうすることも出来ないから、早くサーヤを探しに行こうよ」

「そうね、四匹の竜に乗ってサーヤを探しにいきましょう」

ミウが四匹の竜を探して天を見上げると、既に四匹の竜は天から顔を出していた。

*** ずっと様子を見ていたんだよ。みんな、早く俺達の背中に乗って!・・・

タリュウがうながすと、みんなは四匹の竜に乗って影宇宙に戻った。

 

*** サーヤのいる場所は分かったのかい、ヒロ、サスケ?・・・

タリュウがヒロとサスケに話しかけたが、ヒロは不満げに答えた。

「サスケが見つけてくれたのは、この緑色のきれいなヒスイの玉だけなんだ」

*** ヒロ、何言ってるんだい。井戸に落ちて、そのヒスイの玉を見つけた時に、サーヤの匂いを感じたんだよ・・・

「サスケは僕に突き飛ばされて、偶然井戸に落ちたんじゃないか」

*** いや、井戸に落ちる前からサーヤの匂いを感じていたのさ・・・

サスケが自信に満ちた顔をヒロに向けている。ヒロとサスケの会話を聞いていたミウは、おかしなことに気づいた。

「サスケはまだサーヤに会ったことがないのに、どうしてサーヤの匂いが分かるの?」

*** おいらは、サーヤだけじゃなくて、ヒロの父さんと母さんの匂いも分かるよ。会ったことがなくても、ばあちゃんの家にいっぱい匂いが残っているから・・・

「サスケは鼻がいいだけじゃなくて、頭もいいんだね。じゃあ、ヒスイの玉からサーヤの匂いがするのは何故だか分かる?」

*** きっとどこかで、サーヤがヒスイの玉を触って遊んだんだよ・・・

「エーッ、四千五百年前よりもっと過去の時代に、サーヤが来ていたなんて考えられないよ」

サスケの話を聞いていたケンは驚いた。そこにジリュウが話に加わってきた。

*** とにかくそのヒスイの玉が、サーヤを捜す手掛りになるってことだ。それに、ヒスイの玉が反射する光を見ると、おいらたちはヒスイの玉に何故か引き寄せられるんだよ・・・

 

<第56話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第56話>

 

「じゃあ、そのヒスイの玉が造られた時代まで遡ってみれば、サーヤのいる場所が分かるだけじゃなくて、ヒスイの玉の秘密が分かるかもしれないぞ」

スガワラ先生には、まだ確信はなかったが、もっと過去に遡ればサーヤのいる場所が分かるような気がしていた。それを聞いたシリュウは、困惑してサブリュウに話しかけた。

*** どんな過去に行けばいいんだろう、サブリュウ?・・・

*** そりゃあ、誰にも分からないから、時々地上の様子を見ながら過去に遡ればいいんじゃないか、シリュウ?・・・

スガワラ先生も同じことを考えていたので、サブリュウのアイデアに賛成した。

「それはいい方法だ。じゃあ、この都市の七千年前の様子を見てみよう」

「どうして七千年前なんですか?モヘンジョ・ダロの都市の起原が六千年前か七千年前と言われているからですか?」

ヒロは以前の授業で習ったことを言ったのだが、スガワラ先生は喜んで大きくうなづいた。

「そうだ、ヒロ、よく憶えていたな!七千年前のモヘンジョ・ダロを見せてくれ、シリュウ!」

*** スガワラ先生、そろそろ七千年前のモヘンジョ・ダロが見えてくるよ・・・

 

宇宙ステーションから地球を見ているくらい遠くに見えていたのに、どんどんインドの海岸線から内陸に近づいて行き、モヘンジョ・ダロの都市がはっきりと見えてきた。レンガ造りの建物、沐浴場、舗装された道路など、四千五百年前と同じように整然としていた。しかし、それらの配置は四千五百年前と違っており、城壁に囲まれた都市の面積は四千五百年前よりずいぶん小さい。

「やはり七千年前にはモヘンジョ・ダロの都市が造られていたんだ!でも、まだ丘の上の神殿が造られていないから、この都市は始まったばかりだ。見ろ、建物が新しいし、建築中の建物もあるじゃないか!」

スガワラ先生はシリュウから身を乗り出して、初期のモヘンジョ・ダロを詳しく観察しようとしている。しかし、ヒロは早くサーヤのいる所に行きたかった。

「スガワラ先生、モヘンジョ・ダロの起源より、サーヤを捜すことが大事ですよ!タリュウ、サスケ、早くサーヤのいる所へ連れて行ってくれよ!」

*** ヒスイの玉がもっと過去に行きたがっている・・・そう思わないか、ジリュウ?・・・

*** そうだなタリュウ、ヒスイの玉はしゃべらないが、遠い過去に何かがあるようだ・・・サブリュウは何か感じるかい?・・・

*** ヒスイの玉の光が過去に向かって伸びている。もっと過去に行こうよ!・・・

四匹の竜は、光が伸びている方向へ上昇して行く。地球が遠くなったり近くなったりして、時間を遡って行く。

「ちょっと待ってくれ。シリュウ、八千年前のモヘンジョ・ダロはどこに見えるかな?」

*** スガワラ先生、八千年前のモヘンジョ・ダロがもうすぐ見えてくるはずだけど、街が消えているね・・・

 

<第57話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第57話>

 

七千年前のモヘンジョ・ダロと同じ場所に近づいたが、そこには農耕地に囲まれた低い丘が見えるだけだった。遠くの山には雪のような白いものが見えるが、氷河ではないだろうか。さらに地表から離れて全体を見渡すと、七千年前より海岸線が遠くに見える。

「やっぱり、八千年前は寒い時代だったんだ。地球の水が氷河になって陸上にあるから、海の水が少なかった。だから、海岸線が遠くに見えるんだ」

スガワラ先生は、陸地にあった氷河が二万年前に融け始めて海面が上昇したことを知っている。海面の上昇は六千年前まで続いて、現在の高さになったのだ。

「ヒスイの玉の光が海岸の方向に伸びているよ。タリュウ、あっちに行けばサーヤの手掛りが見つかるはずだよ!」

ヒロは、こんなことをしているのがもどかしかった。ミウにはヒロの気持ちがよく分かる。

「ジリュウ、もっと速く海岸まで行ってよ!ヒスイの玉の光が伸びている方向は、あっちだよ!」

*** 分かっているよ、ミウ。早くサーヤに会えるように、海岸線を見ながら過去に遡ろう・・・

 

地表が大きく見えるようになると、氷河の形がはっきりしてきた。

「八千年前には、こんなに広くて分厚い氷河が山を削って動いていたのかあ!」

ケンは想像を絶する氷河の破壊力に驚いていた。海岸線に近づくと、いくつかの大きな川が注ぎ込む広い湾が見えてきた。その広い湾を見ながら過去に遡ると海面が低くなって行き、海中からモヘンジョ・ダロのような古代都市が浮上してきた。

「これはカンベイ湾に沈んだ超古代都市だ!誰がいつ造ったんだろう?シリュウ、もっと過去に遡ってくれ」

スガワラ先生が興奮している。今度はミウが先生に注意した。

「サーヤを捜すのが大事です、先生!ヒスイの玉の光はどっちに向かっているの、ジリュウ?」

*** この古代都市のもっと過去に向かっているよ、ミウ。もっと急ごうぜ、みんな!・・・

四匹の竜はぐんぐん上昇して行く。

 

「ずっと不思議に思っていたんだけど、影宇宙の中で上昇すると過去に遡れるのは何故なんだ?」

サブリュウの背中に乗って回りを見渡していたケンが四匹の竜に訊いた。

*** 何故かと言われても、説明するのは難しいなあ、ジリュウ・・・

*** そうだな、サブリュウ。俺たちは影宇宙育ちだから、ケンの育った宇宙のことを知らないからなあ。タリュウは説明できるかい?・・・

*** 詳しいことは分からないけど、影宇宙の中を上昇して宇宙に出れば、そこは過去の宇宙なんだ。その反対に影宇宙の中を下降して宇宙に出ると、そこは未来の宇宙なんだよ・・・

四匹の竜の中で一番しっかりしているタリュウが、少ない経験を思い出して説明した。

 

<第58話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第58話>

 

「この四匹の竜はまだ子供だから、影宇宙の構造をあまり知らないんだろう。いつかヒロの父親のシュウジに会えたら詳しく教えてもらおう」

スガワラ先生は宇宙の構造にあまり関心がないが、ヒロは父親譲りの想像力を持っている。

「影宇宙の上下方向と、僕たちの宇宙の時間軸が同じ方向になって重なっているんじゃないかなあ。僕たちには宇宙の時間軸は見えないけどね」

「じゃあ、影宇宙の時間軸は俺たちの宇宙の上下方向と重なっているのか?」

ケンにはまだよく分からないようだ。

「ところで、もう大分過去に遡ったんじゃないか、シリュウ?」

スガワラ先生は宇宙の構造より、古代史に強い興味を持っている。

*** スガワラ先生、一万一千年前まで遡ったよ。あそこに古代都市が見えるだろう・・・

ずーっと光の指す方向を見ていたヒロが大きな声をあげた。

「あっ、ヒスイの玉の光が、あそこに見える古代都市を指しているよ!」

 

カンベイ湾の海岸線は八千年前にはこの古代都市のすぐ近くにあったが、一万一千年前になると遥か遠くに見える。三千年遡ると、海面はさらに低くなっていたのだ。古代都市から海岸線まではもの凄く広い平野が広がっていて、大きな二本の川が海まで悠々と流れている。そのうちの一本の大きな川に近い丘陵地帯に古代都市はあった。

「サーヤの匂いを感じるかい、サスケ?」

*** そうだね、あの古代都市の方からサーヤの匂いがするよ、ヒロ・・・

「じゃあ、あの古代都市に近づいておくれ、タリュウ。どこか近くの目立たない場所に降ろしてくれないか?」

ヒロがそう言うと、スガワラ先生が慌てて遮った。

「ちょっと待て、ヒロ。この古代都市が、いつ造られたのか見たくないのか?もう少し過去まで遡ろう」

「先生、何度も言いますが、それより早くサーヤを捜しましょう!」

「そうですよ、先生。早く影宇宙から出て、サーヤを捜しましょう」

ミウもヒロと同じように、スガワラ先生に注意した。

「よーし、多数決で決まったから、影宇宙から出ましょうよ、先生!」

ケンはそう言いながら、降りる準備を始めている。しかし、スガワラ先生は頑固だ。

「ここで時間を使っても、マリの待っている宇宙に戻るタイミングを調整すれば問題ない。どうしても今出たいのなら、勝手に出て行け。俺はもう少し過去に遡る」

 

古代都市に近づくと、大きな川を見下ろす丘の上から川に向かって街が造られているように見える。レンガ造りの建物、舗装された道路など、モヘンジョ・ダロと同じように整然としている。建物や道路は新しく、建築中の建物もあるので、この古代都市が始まって間もないことが分かる。

「先生、この古代都市は新しいから、過去に遡ると消えてしまいますよ。一緒に影宇宙から出ましょう!」

ヒロが再度説得したが、スガワラ先生は意地を張っている。

「いや、もう少しだけ過去に遡って、この古代都市の始まりを見たいんだよ。みんなは俺に構わず、今ここから出て行っていいんだ」

「仕方ないなあ。じゃあ、俺たちだけ先に行きますよ。サブリュウ、目立たない出口に行こうぜ」

ケンはスガワラ先生を説得するのは無理だと分かっている。

 

<第59話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

 

<第59話>

 

ヒロとミウは早くサーヤを捜したかったので、スガワラ先生を説得するのを諦めた。

「先生、あんまり過去に遡らないで、早く出てきてくださいよ」

「じゃあ、わたし達は先に行きます。先生、気をつけて!」

スガワラ先生は内心動揺していたが、強気を装って別れを告げた。

「みんなも気をつけて行けよ!」

ヒロとサスケを乗せたタリュウを先頭に、三匹の竜は古代都市に近い目立たない出口に向かって進んで行った。

 

一方、スガワラ先生を乗せたシリュウは、過去に向かって上昇して行った。

*** スガワラ先生、もう街の建物がほとんどなくなっているよ・・・

「シリュウ、さっきから何年遡ったか分かるか?」

*** うーん、一年くらいかなあ。もう影宇宙から出た方がいいよ・・・

「分かった。じゃあ、そこの建物の裏側に出よう」

*** そこは洞じゃないから、古代人達にすぐ見つかってしまうよ・・・

「なーに、大丈夫だ。シリュウ、時間を遡ってくれて、ありがとう。後でまた会おう!」

スガワラ先生は、シリュウから降りてレンガ造りの建物の裏側に姿を現した。

その建物の窓からぼんやりと外を眺めていた少女が、突然目の前に現れたスガワラ先生を見て、大声をあげた。

「きゃーっ、男の人が空から降ってきたあー!」

建物の中では、五十人くらいの聴衆に向かって、一人の中年男が演説をしていたところだった。少女の声を聞いて、演説をしていた男と聴衆全員が建物の裏側に走り出た。

「あっ、やあ、こんにちは。皆さん、大勢ですねえ・・・」

四千五百年前の古代インド人の姿をしたままのスガワラ先生が、どぎまぎしながら挨拶をした。スガワラ先生は、五十人以上の超古代人達に取り囲まれている。

 

「あなたはこの付近の人ですか?私はブラフマーという者です」

演説をしていた男が、スガワラ先生をじっと見つめて問いかけた。

「私はスガワラという者です。東の方から竜に乗って来ました。立派なヒスイの玉の持主を捜しているのです」

スガワラ先生も、ブラフマーをじっと見つめて静かに答えた。ブラフマーはがっしりした体格をしているが、背が高い方ではない。

「ほんとに竜に乗ってきたの?私には空から降ってきたように見えたけど!」

ブラフマーの後からスガワラ先生を見ていた少女が、不思議そうな顔をして前に出てきた。

「ほんとに竜に乗って来たんだよ。竜から降りる時は、空から降ってきたように見えるものだよ」

スガワラ先生が真顔で説明すると、少女は大きくうなずいてにっこりほほ笑んだ。その様子を見て、大勢の超古代人達もなごやかな表情に変わった。ブラフマーは、少女の頭をやさしくなでながらスガワラ先生に話しかけた。

「あなたが捜しているヒスイの玉の持主は、私かもしれない。私の家に案内しましょう」

「お父様、あたしが案内するわ。竜に乗って来たおじさん、私はパールヴァっていうのよ」

十歳くらいの少女はすっかり安心して、スガワラ先生の手を引いて歩き出した。

 

<第60話へ続く>

  

(C)Copyright 2013, 鶴野 正

 

What's New

ここには全ページに

共通の項目が表示されます。

 

<利用例>

What's New!

 

<利用例>

お問合わせはこちらから