宇宙の忍者 ヒロ   1章 9節

 

 

 

<第117話    2014.10.8>

 

9節 不思議な能力を持つ妹

 

*** サーヤの所に行く方法は簡単じゃないのよ・・・

ヒロがまだ聞いたことのない声が聞こえた。

*** あっ、母さんの声だ・・・、そうだ母さんだ・・・

タリュウ、ジリュウ、サブリュウ、シリュウが一斉に声をあげた。

「お前たちの母さんの声なのかー・・・どこにいるんだ?」

ケンが影宇宙の中で上や横を見るが、竜の母親の姿は見えない。

 

「サーヤとインドのばあちゃんは過去の時代にいるから、外部の人は誰も近づけないって、母さんが言ってたよ。誰も近づけない所に行く方法ってあるの?」

ヒロがずーっと疑問に思っていたことを口にすると、斜め下方から竜の母親の声が聞こえた。

*** それは、私の声のする方へ来れば教えてあげるわ・・・

影宇宙の中を下降すると、四千五百年前の時代から未来に行ける。斜め下方に進むということは、サーヤとインドのばあちゃんがいる時代のヒマラヤの山岳地帯に向かうということだ。

 

タリュウを先頭に、みんなが影宇宙の中を下降していると、ラクシュミーの声が聞こえてきた。

「ボサツが私の娘達を大切に育ててくれたので、ヴァーチュは、優しくて美しい娘に育ちました。そして、ヴィーナは素晴しい歌声の持主になりました」

「あっ、 ラクシュミー・・・あなたはどこにいるんですか?どうして影宇宙の中に声が届くんですか?」

ラクシュミーの声にミウが問いかけると、答えが返って来た。

「いつの間にか私は治癒の惑星の魂(たましい)の中に入って、ヴァーチュとヴィーナを見守っていたの。成長した二人は、ボサツに教えてもらったことを詩のような物語にしたの。マハーバーラタとラーマーヤナよ。二千年後には二人とも伝説の中の女神になっているのよ」

 

「じゃあ、あなたはヴァーチュとヴィーナの子孫も見守っているんですか?」

タリュウに乗っているヒロが、ラクシュミーに話しかけると、彼女の声が聞こえた。

「モヘンジョ・ダロを破壊したアンコクの魂は、あの後、何度も独裁者の国を作ったのよ。その度に戦争でたくさんの人たちがケガをしたり死んだりしたわ。私のようにケガを治せる能力が必要な時に、ヴァーチュとヴィーナの子孫の中から選んだ人に治癒能力を授けてきたのよ」

ラクシュミーの子孫に治癒能力が遺伝することはないが、その能力が必要な時代に、治癒の惑星の魂(たましい)が適切な人を選び、治癒能力を授けていたのだ。

サーヤとヒロの母エミリはラクシュミーの遠い子孫だった。

 

<第118話へ続く>

  

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<第118話    2014.10.15>

 

*** あれっ、急に何も見えなくなった・・・

タリュウが両目を大きく見開いて、進行方向を見つめるが、何も見えない。

「過去の時代から、どれくらい未来に進んだかわかるの?」

ミウがジリュウに聞いた。

*** えーっと、モヘンジョ・ダロが破壊された時代から四千年くらい未来に進んだよ・・・

ジリュウが考えながら答えると、すぐそばで竜の母親の声が聞こえた。

*** この時代の影宇宙と宇宙の間は行き来ができないのよ。この時代は現代より五百年くらい前だから、宇宙の中から近づくことはできないわ。影宇宙の中を通って近づこうとしても、宇宙への出口が閉ざされているの・・・

 

「ということは、サーヤとインドのばあちゃんはこの時代にいるのか。でも、どうすればサーヤのところに行けるの?」

ヒロは一刻も早くサーヤに会いたいのに、竜の母親は落ち着いて答える。

*** この時代の宇宙への出口を開けられるのは、ヒロとサーヤだけよ。ヒロがサーヤに呼びかけなくてはならないの・・・

「サーヤがアンコクやヤミの魂(たましい)に襲われないように、父さんが影宇宙の出口を閉じたんだね。今、サーヤは近くにいるのかな?サーヤ、僕だよ、ヒロだよー!」

はやる気持ちをおさえて、ヒロがサーヤに呼びかけた。

 

しかし、サーヤから何の反応もない。

「サーヤに聞こえたのかなあ?ヒロ、もっと大声を出せよ!」

サブリュウに乗ったケンが、ヒロに近づいて肩をたたく。

「私の千里眼ではサーヤの姿が見えないよ。ヒロなら見えるんじゃないの?」

ミウが上下左右を見回してから、ヒロに笑顔を向けた。

「そうだね、すごく高い山の下にある田舎の村は見えるけど、サーヤとインドのばあちゃんの姿は見えないよ」

ヒロが首を振ると、サスケの口から父さんの声が聞こえた。

「みんながサーヤを奈良に連れて帰った後なら、ここにサーヤはいないんじゃないか?」

 

「あっ、そうか!どうしてそんな簡単なことに気づかなかったんだろう」

ケンが自分の頭をコツンとたたいた。

「タリュウ、ゆっくり過去に戻ってくれよ。千里眼でサーヤの姿を見つけたら、合図をするよ」

ヒロがそう言うと、タリュウはゆっくりと過去に向かって上昇し始めた。ヒロが高い山のふもとにある村を見つめていると、サーヤとインドのばあちゃんの姿が見えた。

「あっ・・・えー?・・・うーん・・・」

ヒロは言葉にならない声を出した。

  

<第119話へ続く>

  

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<第119話    2014.11.14>

 

「なーに?ヒロ、何が見えるの?」

ミウがヒロの顔をのぞき込むが、ヒロは目を合わさずまっすぐ前を見つめている。サーヤの向こうにミウ、ケン、サスケ、カゲマル、コタロウ、そして自分が見えているのだ。奇妙な気持ちで見つめていると、サーヤのまわりから自分達がいなくなった。

「あっ、タリュウ、ここで止まってくれよ」

ヒロの合図でタリュウが止まると、ジリュウ、サブリュウ、シリュウも止まった。

「サーヤ・・・僕だよ、ヒロだよー!」

ヒロが叫ぶと、サーヤは驚いて後を振り向いた。

 

「ヒロ・・・ヒロなの?・・・どこにいるの?」

サーヤの声がヒロに届いた時、ミウとケンが歓声をあげた。

「サーヤが答えたあー!やったー!」

その時、影宇宙の出口が開いて、サーヤの前にヒロとサスケが現れた。続いて、ミウ、カゲマル、ケン、そしてコタロウが現れた。

ヒロとサーヤは五歳の時に奈良とインドに引き離された。それ以来の再会だ。

「サーヤ・・・、やっと会えたね」

ヒロはサーヤをしっかりと抱きしめた。

 

「ああ、夢じゃないよね、ヒロ・・・」

サーヤの目から涙があふれた。

「サーヤ、わたしはミウよ。憶えてる?」

ミウがヒロの後からサーヤに近づいて、ほほ笑んだ。

「ミウ・・・ぼんやりだけど、憶えているわ。また会えて、すごくうれしい!」

サーヤが笑顔になった。サーヤは、幼い頃に何度か奈良に遊びにきた時にミウとケンに会ったことがあるが、記憶はぼんやりしている。

 

「サ・・・サーヤ、俺のこと・・・憶えてる?ケンだよ・・・」

ケンは、サーヤが可憐な少女に成長していることに驚いていた。

「ケン・・・五歳の頃のケンは憶えているけど、・・・どうしてそんなに大きくなったの?」

サーヤが、ケンの足下から頭まで視線を上げていくと、ケンはどぎまぎしてヒロの方を向いた。ケンはすぐにサーヤを好きになった。サーヤとヒロは似ている。

「どっ・・・どうしてって言われても・・・俺にも分からないよ。じゃあ、どうしてサーヤとヒロは似ているの?」

ケンは、さらにどぎまぎして、つまらない質問を口にした。

 

<第120話へ続く>

  

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<第120話    2014.12.16>

 

「サーヤとヒロは双子だから、似ていて当然でしょ、ケン。あれー、サーヤがあんまり可愛いから、混乱してるんじゃないの?」

ミウにからかわれると、ケンは口をとがらせてつぶやいた。

「そんなことないよ・・・」

実際、ミウの言うとおりだった。ケンは心の中で自問自答し始めた。

「俺は小さい時からヒロが好きだ。じゃあ、俺はヒロに惚れているのか?いや、違う。ヒロは親友だ。サーヤには、ヒロに対する気持ちとは違う何かを感じる。だけど、俺はミウが好きだったはずだ。うーん、自分の心が分からない・・・」

ケンは初めて悩んだ。

 

ケンの様子を不思議そうに見ていたヒロの視界に、サスケが入り、次に像が入ってきた。

「サーヤ、あの像は何なの?」

「この像はわたしのペットよ。ハンゾウっていうの」

サーヤがハンゾウをみんなに紹介すると、ハンゾウは一人ひとりに鼻を近づけて挨拶をした。

「僕のペットは、柴犬のサスケだよ」

ヒロがサスケの頭をなでる。続いて、ミウがカゲマルを抱き上げて紹介する。

「カゲマルはすごく賢い猫よ。あー・・・ケンは混乱してるから、ケンのペットも紹介するね。コタロウっていうの」

ミウがコタロウの肩に触ると、コタロウはケンの手を握った。ケンはぼんやりしていた。

コタロウは、ケンの注意をひこうとして、ケンの周りを回り始めた。

 

「コタロウ、そんなことしちゃダメだぞ!」

ケンがコタロウをつかまえようとしたが、身軽なコタロウはハンゾウの背中に飛び乗ってしまった。

「あっダメよ!カゲマル・・・」

ミウが止めたが、カゲマルもハンゾウの背中に飛び乗った。サスケはハンゾウを見た後、振り向いてヒロの前に座った。

「サスケはハンゾウに乗ったりしないよ」

ヒロがサスケを抱き上げた。それを見て、サーヤがふわりとハンゾウの背中に飛び乗った。

「ハンゾウはコタロウやカゲマルが乗っても大丈夫よ!」

ケンはますますサーヤが好きになった。  

  

<第121話へ続く>

  

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<第121話    2014.12.23>

 

  「おやおや、ヒロじゃないかい?よく来てくれたねえ」

白髪のおばあさんが大きな像に乗って、ゆっくり近づいて来た。

「あっ、インドのばあちゃん!」

ヒロがインドのばあちゃんを見上げると、ばあちゃんはするすると像から下りて来た。

「ヒロ、ずいぶん大きくなったね」

インドのばあちゃんはヒロの肩を抱いて、ほおを寄せた。ヒロは少しかがんで、ばあちゃんのほおに自分のほおを合わせた。

「インドのばあちゃんは、痩せているんだね・・・」

「私は普通よ。奈良のユリコさん・・・奈良のばあちゃんより細いだけよ」

インドのばあちゃんは明るくほほ笑んだ。

 

「おばあちゃんが乗って来た大きな像は、ハンゾウの母親ですか?」

ミウが大きな像を見上げて質問すると、インドのばあちゃんがうなずいた。

「そうよ、ハンゾウの母親よ。ハナっていうの。とても頼りになる像よ」

「頼りになるって、どういうことですか?」

強い動物が好きなケンは、ハナの力の強さを知りたいと思った。

「ハナ、お友達に挨拶をしなさい」

インドのばあちゃんがハナに声をかけると、長い鼻をケンの腰にまわして持ち上げてみせた。

「うわあー、すっげえ力持ちだ!ハナに勝てる人間はいないよ」

ケンは、ハナをすっかり気に入ってしまった。

 

「ばあちゃんとサーヤに、お願いがあるんだ」

ヒロが、マリを救ってほしいと言おうとしたら、サーヤがさえぎった。

「わかってるよ、ヒロ」

サーヤはハンゾウの背中から降りて、ヒロの手をにぎった。

「昨日、父さんが教えてくれたのよ。サーヤ、マリを助けに奈良に行きなさいって」

「サーヤは五歳の時に、私と一緒にここに来たの。サーヤにはもともと治癒能力があったけど、さらに毎年のように治癒能力が強くなったのよ。それは、侵略者に襲われたり、自然災害に遭ったりしてケガをした人達を助けるために、治癒の惑星の魂(たましい)から強い治癒能力を授けられたからだって、シュウジさんの声が教えてくれたわ」

インドのばあちゃんは、ラクシュミーと同じことを言った。

 

<第122話へ続く>

  

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<第122話    2015.1.15>

 

  「じゃあ、今から皆で奈良に行こうよ」

ヒロが影宇宙にいるタリュウ達を呼ぼうとして天を見上げた時、ヒュッと一本の矢がヒロの顔をかすめた。

「誰だ!」

ケンが叫ぶと、その声を目がけてたくさんの矢が飛んで来た。

「みんな早くハナとハンゾウに乗って!」

インドのばあちゃんが、ハナに飛び乗りながら言った。ミウ、ケン、カゲマル、コタロウがハナに乗り、ヒロとサスケがサーヤと一緒にハンゾウに乗った。

「おおっ、すごい!」

ケンが驚きの声をあげた。大きな像のハナがスーッと上昇して、あっという間に地上百メートルの高さに静止したのだ。

 

ハナに続いてハンゾウも飛び上がった。ハンゾウが急に動いたので、サスケが落ちそうになった。

「おっと危ない。サスケ、大丈夫か?」

ハンゾウから落ちそうになったサスケをヒロが助けた。ハンゾウは、母親のハナを見上げながら同じ高さまで上昇して、ハナの周りをクルクルと回っている。

「この高さまでは敵の弓矢は届かないよ」

サーヤがヒロとサスケに言った。

「うわっ、敵の兵士たちがたくさん下に集まってきてるよ!」

ヒロは兵士たちの人数に驚いた。数千人はいるだろう。

 

「ハナ、仲間を呼んでおくれ。いつまでも浮かんでいるわけにはいかないからね」

インドのばあちゃんがハナにささやくと、ハナが大きな声で鳴いた。

「パオオー!」

しばらくすると、ドドドーッという地響きとともに数千頭の像が敵の兵士たちに迫ってきた。

「ああー、はやく逃げろー!」

敵の兵士たちは、必死の形相で西の方へ走り出した。

「もう安心だから、みんなも空に浮かびなさい」

インドのばあちゃんが数千頭の像たちに声をかけると、信じられないことが起こった。数千頭の像たちがハナやハンゾウのすぐ下の空中に浮かんだのだ。

「こりゃあ凄いや!敵はみんな腰を抜かして座り込んじゃったよ」

ケンが愉快そうに笑った。

 

<第123話へ続く>

  

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<第123話    2015.1.27>

 

  「どうして敵の兵士は私たちを攻撃したんですか?」

ミウがインドのばあちゃんに問いかけた。

「それは、治癒能力を持っているサーヤを奪いたいからよ」

インドのばあちゃんが答えると、今度はヒロが問いかけた。

「ハナもハンゾウもほかの像たちも、どうして空中に浮かんでいられるの?」

「うーん・・・よくわからないけど、危険な時はハナがなんとかしてくれるのよ」

インドのばあちゃんが困っていると、サーヤが誇らしげに説明し始めた。

「いつも私たちを見守っている父さんが、重力をコントロールしているらしいの・・・どんな方法でコントロールしているかはわからないけど」

「ふーん・・・影宇宙の出入り口を使って、重力をコントロールしているのかもしれないね」

なぜだかヒロの頭の中に、そんな考えが浮かんだ。

 

*** ヒロ、急いで奈良に帰れって、母さんが言ってるよ・・・

突然、タリュウが影宇宙の出入り口から顔を出した。その直後、ハナの周りを回っていたハンゾウが、急にバランスを崩して左右に揺れた。

「きゃー、ハンゾウ、どうしたの?」

サーヤがハンゾウから滑り落ちた。

「あっ、サーヤ!」

ヒロはつむじ風になって、地面に向かって落ちていくサーヤを追いかける。しかし、サーヤは渦を巻くようにクルクルと回りながら落ちていく。ようやくヒロの手がサーヤの手に届いた。

「もう大丈夫だよ、サーヤ」

 

地面に激突する直前、ヒロがサーヤを抱きかかえたが、そのまま二人は地面に腰から落ちてしまった。

「うっ、痛い・・・ サーヤ、ケガしなかった?」

ヒロは、サーヤの頭と肩に触れた。

「うーん・・・どこもケガしていないみたい」

サーヤはゆっくりと体を動かしてみた。

ヒロとサーヤが立ち上がると、敵の弓矢が飛んできた。ヒロはサーヤを背負って飛び上がった。つむじ風になって上昇しようとしたが、敵の弓矢がヒロの腹や足に刺さった。

「うっ、うわっ、痛っ・・・」

ヒロは痛みに耐えかねて、サーヤを背負ったまま地面に落ちてしまった。

 

<第124話へ続く>

  

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<第124話    2015.2.6>

   

「あの二人を捕らえろ!」

「女の子は大事に扱え!ケガをさせたら王様に殺されるぞ・・・」

敵の兵士たちが西の方から駆け寄って来る。そのすぐ後に、東の方から大勢の声が近づいてきた。

「あっちの方に落ちたぞ!」

「あの女の子を奪えば、将軍が喜ぶぞ!」

 

西から近寄ってきた兵士たちが、ヒロとサーヤを取り囲んだ。腹と足に矢が刺さったヒロは、横倒しに倒れている。落ちたはずみで肩を打ったサーヤは、呆然と座り込んでいる。

「よし!この女の子を担いで走れ!」

「早くしろ!東の敵から弓矢が飛んで来たぞ!」

西の兵士たちが、サーヤを担いで西に向かって駆け出した。その後を追って、東の兵士たちが走って来る。

「待て、待てえー!」

「その女の子を置いていけー!」

東の兵士たちが、はあはあ言いながら小声で話している。

「あの女の子にケガをさせたら将軍に殺されるから、弓矢は使えないぞ・・・」

 

「ああ、サーヤが敵にさらわれた・・・あっ、ヒロが兵士たちに取り囲まれた・・・おばあさん、ハナは助けてくれないんですか?」

ハナに乗っているミウが、インドのばあちゃんに後ろからたずねた。

「さっきからハナに言ってるんだけど、聞こえないふりをしているのよ」

インドのばあちゃんは、困った顔をミウに向けた。

 

「ひょっとしたら、ヒロの父さんが俺たちの力を試してるのかもしれないから、俺が助けに行くよ」

そう言って、ケンがハナから飛び降りた。ケンはつむじ風になって、急降下する。

「ヒロ、大丈夫か?まだケガが回復しないのか?」

大勢の兵士たちの中にケンが降り立つと、兵士たちは慌てて後ろに下がった。

「ああ、ケン・・・助けに来てくれたのか・・・」

ようやくヒロの意識が回復した。

 

<第125話へ続く>

  

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<第125話    2015.2.17>

   

ヒロがゆっくり立ち上がるのを見て、ケンが地竜を放った。

「新しい地竜を受けてみろ!うおおー!」

ケンが左手を天に向け、右手を地に向けて素早く回転させると、巨大な竜が渦を巻くように、敵の兵士たちをなぎ倒した。

「よーし、こっちはこれで良し!次はサーヤを取り戻しに行くぞ、ヒロ!」

ケンがヒロの手をつかんで走り出す。

「ああ、なんとか走れるよ・・・ありがとう、ケン」

信じられない早さでケガが治ったヒロは、ケンと並んで走った。

 

「二人でつむじ風になって、上から敵を攻撃しよう!」

ケンが先につむじ風になって、サーヤの周囲の敵の頭をなぐって気絶させた。

「僕がサーヤを抱えて上空に逃げるよ」

ヒロもつむじ風になって、サーヤを担いで逃げる敵の上に近づく。その敵の頭をケンがなぐると同時に、ヒロがサーヤを抱えて上昇した。

「ああ、ヒロ・・・助けに来てくれたんだね・・・でも、ヒロのケガは?」

サーヤがヒロのケガを心配すると、空を飛びながらヒロが笑った。

「僕のケガがすぐ治ることは、サーヤも知ってるじゃないか!でもケンが助けに来てくれなかったら、危険な目にあうところだったよ」

 

ヒロに抱えられて飛んでいるサーヤが横を見ると、ケンが照れくさそうな表情を見せた。

「ケン、すごいね!ヒロと私を助けてくれたんだね・・・ありがとう」

サーヤに感謝されると、ケンはどぎまぎして、声がかすれてしまった。

「いやー、たいしたことじゃないよ・・・イテテッ」

ボーッとして飛んでいたケンの太ももに弓矢が当たった。

「ケン、大丈夫か?」

ヒロが心配すると、ケンが笑って答える。

「大丈夫だよ。矢が当たっただけで、刺さらなかったよ」

 

ヒロとサーヤが、上空で待っていたハンゾウに乗ると、ハナに乗ったインドのばあちゃんが笑顔を向けた。

「二人とも無事で、ほんとに良かった!」

続いてケンがハナの上に戻ると、ミウがケンに拍手を送った。

「ケン、よくやったね!あれっ、太ももから血が出ているよ・・・サーヤに治してもらったら?」

ケンが太ももに手を当ててみたが、血は出ていなかった。

「からかうなよ、ミウ!俺は・・・純情なんだから・・・」

 

<第126話へ続く>

  

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<第126話    2015.2.28>

   

 「今度こそ、急いで奈良に戻ろう!」

ヒロが天を見上げると、タリュウたちが静かに顔を出した。

*** ヒロ、マリの容態が悪くなったから、早くサーヤを奈良に連れて来いって、忍者学校の校長先生が言ってるらしいよ・・・

*** 校長先生が言ってるって、俺たちの母さんが言ってたよ・・・

タリュウとジリュウに促されて、ヒロとサーヤがタリュウに、ミウとカゲマルがジリュウに、そしてケンとコタロウがサブリュウに乗った。ハナに乗っているインドのばあちゃんは、ハナやハンゾウに別れを告げている。ハンゾウの背中でサスケが小さく吠えると、ハナ、ハンゾウ、そして数千頭の象たちがパオオーと鳴いた。サスケがシリュウに乗ると、ハナがインドのばあちゃんを鼻に乗せてシリュウの背中に運んだ。

 

影宇宙の中を現代の奈良に向かっていると、忍者学校の校長の声が聞こえた。

「ヒロ、ミウ、ケン、忍者としてずいぶん成長したようじゃのう・・・今ならアンコクやヤミの魂(たましい)と互角に戦えるじゃろう」

「あっ、校長先生・・・私たちのことをずーっと見守ってくれてたんですか?」

ミウが校長の声の方角に向かって質問した。

「千里眼を使って時々見ていたんじゃ・・・君たちがサーヤを見つけられるか心配じゃったからのう」

校長の声が返ってきた。

 

「マリはまだ大丈夫ですよね、校長先生!」

ヒロが問いかけると、校長の声が答える。

「あー、大丈夫じゃ・・・しかし、マリの容態が悪くなっていると、医者が言っとるんじゃ」

「じゃあ、俺たちが初めて影宇宙に入った時のすぐ後の奈良に戻れば、マリの容態は悪くなってないんじゃないか、ヒロ!」

ケンが自信たっぷりの表情で、ヒロの顔をのぞき込んだ。

「それができればいいんだけど・・・」

ヒロは、校長先生の声と話をした時より前の奈良に戻ることができないかもしれないと思った。そんなヒロの心配を分かっているかのように、校長の声がヒロに届いた。

「君たちが奈良を離れてから今日で五日目じゃ・・・マリは意識不明のままじゃが、生きようと懸命に頑張っておる。サーヤが早く来てくれるのを待っておるぞ・・・」

 

<第127話へ続く>

  

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<第127話    2015.3.17>

   

「わかりました、校長先生。タリュウ、急いで今の奈良に行ってくれ!」

ヒロがタリュウの角(つの)を強く握ると、タリュウが応じる。

*** オーケイ、もうすぐ今の奈良に着くから、ストップって言ってくれよ、ヒロ・・・

奈良盆地の中にある寺や神社が見えてきた。近づくと忍者学校の森や志能備神社も見える。

「ストップ!タリュウ、ここでいいよ。校長先生が忍者学校の校庭にいるのが見えるだろう?」

*** うん、見えるよ、ヒロ。じゃあ、ジリュウ、サブリュウ、シリュウ、影宇宙の出口に行こう・・・

影宇宙の出口は、五日前にサスケとヒロが入った志能備神社の洞だ。

 

神社の裏にある洞から、ヒロとサーヤが出てきた。

「サーヤ、志能備病院に急いで行こう。マリが待っている・・・」

ヒロがサーヤの手を引いて走り出すと、ケンとコタロウが後に続いた。サスケとカゲマルは、インドのばあちゃんを気遣って、ゆっくりと病院に向かう。ミウはインドのばあちゃんと話しながら歩く。

ヒロとサーヤが病院に着くと、忍者学校の校長が玄関で待っていた。

「あっ、校長先生。いつの間に忍者学校から病院に来たんですか?」

ヒロが驚いていると、校長が笑顔でヒロの手を握った。

「何を言っておる、わしは忍者だぞ。ヒロ、よくぞサーヤを連れて帰って来たのう。サーヤ、やはりヒロに似ておるなあ。マリの病室はこっちじゃ」

 

ヒロとサーヤが、マリのいる集中治療室に着くと、中から背の高い看護師が出てきた。ケンの母親だ。

「ヒロ、よくサーヤを探し出してくれたね。みんなが頑張っていたことはスガワラ先生から聞いたよ」

「あっ、ケンのお母さん・・・ケンもミウもマリを助けたくて・・・マリの意識はまだ回復しないんですか?」

ヒロが集中治療室に入ろうとすると、ケンの母親がヒロとサーヤの手を握って言った。

「サーヤ、また会えてよかった。みんながサーヤを待っていたのよ。さあ、中に入って」

「はい・・・あのー、ケンのお母さんは、ずっとマリの看護をしていたんですか?」

サーヤは、ケンの母親が疲れていることに気づいて、その手をしっかりと握り返した。

「ああ・・・この手から全身に元気が広がっていく・・・ありがとう、サーヤ」

ケンの母親は、サーヤの治癒能力の強さに驚いた。

 

<第128話へ続く>

  

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<第128話    2015.4.4>

 

 ヒロとサーヤが集中治療室の中に入ると、マリが五日前と同じようにベッドに寝ている。

「マリ、僕だよ、ヒロだよ!サーヤが助けてくれるからね、マリ」

ヒロが呼びかけてもマリは全く反応しないが、規則正しく呼吸している。

「サーヤよ、マリ・・・手を握るよ、マリ・・・暖かいね」

サーヤが両手で、マリの左手を包み込むように握って目を閉じた。マリからまだ何の反応もない。サーヤは暗闇の中で目を開けているように感じた。

「マリ・・・マリ・・・目を覚まして、マリ!」

サーヤが心の中で叫んだ。

「マリの命が消えそうになっている。サーヤ、マリの頭に片手を当てて、ゆっくり呼びかけなさい」

暗闇の中に、サーヤの知らない女神が現れた。ラクシュミーだ。

 

集中治療室の外では、ケンとミウがインドのばあちゃんや忍者学校の校長とともにマリの回復を願っている。

「おー、ケン、ミウ、久しぶりだなあ」

病院の廊下の向こうから、スガワラ先生の声が聞こえた。

「あら、ミウ、ケン・・・ヒロとサーヤはマリの部屋にいるの?」

スガワラ先生の後ろから、ヒロのばあちゃんが歩いて来た。

「はい、二人は集中治療室に入って、マリを助けようとしています」

ミウがヒロのばあちゃんに答えると、ケンがスガワラ先生に質問する。

「どうして、スガワラ先生は途中で奈良に帰ってしまったんですか?俺たち、すっごく心細かったんですよ」

 

「それは校長先生に呼ばれたから、仕方なく奈良に帰ったんだよ。俺もお前たちのことが心配でたまらなかったよ」

スガワラ先生がケンに説明しながら、校長先生の顔を見た。

「もともと、ケン、ミウ、ヒロの三人でサーヤを探しに行っても良かったんじゃが、スガワラ先生が心配してついて行ってしまった。どこかで呼び戻そうと思って千里眼で様子を見ていたら、ちょうど良い時期が来たから、竜の母親に伝えたんじゃ。君たちは、ブラフマー、ゴータマ、ヴィシュヌ、ラクシュミーという神々から貴重な知恵と力を受けついで、ほんとに強くなったぞ」

校長先生がケンとミウに説明し、満足そうに笑った。  

 

<第129話へ続く>

  

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<第129話    2015.4.18>

 

集中治療室の中にいるヒロが小さな声をあげた。

「あっ、ラクシュミー!サーヤに力を貸してください」

ヒロは千里眼の力でサーヤと同じ景色を見ることができるのだ。

「ヒロ、あの女神を知っているの?」

サーヤがささやくと、ヒロはラクシュミーがサーヤの母エミリの祖先であることや治癒の惑星から治癒能力を授けられた最初の人であることを教えた。

「ありがとう、ヒロ。ラクシュミーの言うとおりにするよ」

そう言って、サーヤはマリの頭に片手を当てて、静かにゆっくりとマリに話しかけた。

 

暗闇の中で、ラクシュミーが女の子を抱いている。

「あれ?ラクシュミーが抱いているのは、ヴィーナじゃないか?」

ヒロはサーヤに、ヴィーナはラクシュミーの二番目の女の子で、素晴しい歌声の持主になったことを教えた。

「いいえ、この子はヴィーナじゃなくて、幼い頃の眠っているマリよ」

ラクシュミーは、マリが寝ているベッドの上にそっと女の子を置いた。

「あっ、暗闇の中にマリが見える!マリ、マリ、私よ、返事をして・・・」

サーヤがマリの手を握って反応を待つ。

 

ヒロには、暗闇の中のマリが随分幼く見える。

「ラクシュミー、どうして幼い頃のマリが、ここにいるんですか?」

「この暗闇はマリの意識とつながっているの。私たちに見えるマリが幼く見えるということは、マリの命は救われたけど、幼い頃の意識だけが戻ったということなのよ」

ラクシュミーが複雑な表情を見せると、ヒロは小さくうなづいてマリに語りかけた。

「マリ、僕だよ、ヒロだよ・・・」

 

集中治療室の中の様子が気になったミウとケンが、治療室に入ってきた。

「マリの手が・・・少し動いたみたい・・・」

サーヤがマリの顔を覗き込む。

「あっ、マリのまぶたが動いた・・・」

ヒロがマリの頭に片手を当てる。ミウとケンが顔を見合わせる。

「あー!マリが目を開けたー!」

マリがゆっくりと目を開くと、ケンが大きな声をあげた。

「マリ、私よ、ミウよ・・・よかったね・・・」

ミウが、マリのもう一方の手を握って喜んだ。 

 

<第130話へ続く>

  

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<第130話    2015.5.17>

 

 サーヤとヒロは、暗闇の中のマリが五歳くらいに見えることに戸惑っていた。

「マリ、私が誰だかわかる?」

サーヤが、目を開けたマリに問いかけると、マリはじーっとサーヤを見つめていた。しばらくしてマリの表情がパッと明るくなった。

「サーヤ!サーヤでしょ?」

「そうよ、サーヤよ。マリ、頭は痛くない?」

「うーん・・・痛くないよ。でも、サーヤは急におねえちゃんになったみたいだね」

マリの幼い意識の中では、十三歳のサーヤが大人に見えるようだ。

 

「マリ、背中は痛くないか?マリは、トラックにはね飛ばされたんだよ」

ヒロがサーヤの横から顔を出して、マリに声をかけた。

「うーん・・・痛くないよ、ヒロ。でも・・・どうしてヒロもお兄ちゃんになっちゃったの?」

マリの言葉を聞いて、ミウとケンがマリの顔をのぞき込む。

「マリ、ケンと私も大人に見えるの?」

「あれっ、ほんとだ!どうして?」

マリが、ミウとケンの顔をしっかり見ようと、体を起こそうとする。

「あー、まだ起きちゃいけないよ、マリ」

集中治療室の入り口で様子を見ていた医師が、マリに近づいて優しく寝かせた。

 

そこへマリの両親が、あわただしく入ってきて、マリに抱きついた。両親は、医師とサーヤに何度も感謝の言葉を伝え、涙を流した。

「マリは、サーヤの奇跡の力で生きるための機能が回復しました。しかし、最近数年間の記憶を喪失してしまったようです。まずは体力を回復してから、記憶を取り戻せるよう治療しましょう」

医師は、マリの両親が失望しないように配慮しながら、ゆっくりと語りかけた。

「うーん・・・サーヤはどこに行ってたの?ヒロが毎日捜していたんだよ」

マリがベッドに寝たまま、顔をサーヤに向けた。マリの意識は、ヒロが家族と引き離された五歳の頃のままのようだ。

「ヒロとミウと俺が、サーヤを捜しに行ってきたんだ。すごい冒険だったぞ。マリが元気になって退院したら話してやるから、先生の言うことをよく聞くんだぞ」

ケンが得意満面の表情で、マリの頭をなでた。

 

<第131話へ続く>

  

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<第131話    2015.8.6>

 

 マリの両親を集中治療室に残して、ヒロ達は病院の庭に出た。そこには、サスケ、カゲマル、コタロウ、そしてマリのペットのヒショウがいた。

「みんな、マリは助かったよ」

ヒロがサスケを抱き上げると、カゲマルとコタロウがジャンプし、ヒショウが空に舞い上がって、喜んだ。

「でも、マリの記憶が消えちゃったみたいだな・・・」

ケンが上を見上げてつぶやいた。

「私たちの記憶をマリに教えたら、いいんじゃないの?」

ミウがケンの肩をポンとたたく。

「そうだ!ブラフマーさんに教えてもらった術を使えば、すごいスピードでマリに記憶を伝えられるよ!」

ヒロがミウとハイタッチして喜んだ。

 

数日後、マリは体力が回復し、退院することになった。その日の午後、両親に連れられて自宅に戻り、庭に出てヒショウと遊んでいた。そこへヒロがサスケを連れてやって来た。

「マリ、退院できてよかったね。マリの消えた記憶の代わりに僕の記憶をマリに伝えるよ」

ブラフマーから修得した方法で、ヒロの脳からマリの脳へ記憶が伝えられた。その後、ミウとケンがカゲマルとコタロウを連れて、庭に入って来た。

「マリ、今の気分はどう?」

ミウがマリの肩に手をおいてたずねると、マリは目を輝かせて答える。

「うん、すごく大人になった気分だよ」

マリは、ヒロの記憶の中に自分やミウとケンが頻繁に登場するので、皆と一緒に成長したことを実感した。

 

「じゃあ、わたしの記憶もマリに伝えるよ」

今度は、ミウの脳からマリの脳へ記憶が伝えられた。

ミウの記憶の中でも、自分やヒロとケンが一緒に遊んだり勉強したりしているので、マリは自分も中学生なんだという気持ちになった。

マリが静かに目を開けると、ケンがマリの頭に手をおいて声をかける。

「マリ、俺の記憶は武術と戦いでいっぱいだから、受け継げばすごく強くなれるぞ」

「いいよ、ケン・・・わたしは強くならなくてもいいから」

マリに断られてがっかりしたケンが庭の向こうを見ると、サーヤがこちらに歩いて来る。

「サーヤは5歳の時に日本を離れたから、日本の学校で習うことを教わっていないんじゃないか?」

ケンがサーヤの方を向いたまま、ヒロに話しかけた。

 

<第132話へ続く>

  

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<第132話    2015.8.13>

 

「そうだね、ケン。サーヤにも僕たちの記憶を伝えて、学校で一緒に勉強しよう」

ヒロはそう言って、ブラフマーから修得した術のことをサーヤに説明した。

「わあ、すごい!日本の学校で習う七年分の知識が、あっという間にわたしの頭に入ってくるなんて!」

サーヤは目を輝かせてヒロやケンを見た。

「じゃあ、俺から始めるよ」

今度は断られないように、ケンが一番初めに記憶を伝えることにした。

 

サーヤの脳に自分の記憶を伝えている間ずっと、ケンは緊張していた。

「ありがとう、ケン。忍者学校ではいろんな武術の修行をしたんだね。わたしも強くなれた気がする」

サーヤに感謝されて、ケンは気分が良かった。

「どういたしまして、サーヤ。わからないことがあれば、何でも俺に聞いて!」

「じゃあ、小学生の頃からケンはミウが好きだったのに、どうして言わなかったの?」

外国育ちのサーヤがストレートに聞くと、ケンはどぎまぎして上ずった声を出した。

「そんな記憶までサーヤに伝わったのか・・・いや、自分じゃよくわからないんだよ、サーヤ」

 

困っているケンを助けようとして、ヒロがサーヤに話しかける。

「忍者学校では武術以外のこともたくさん修行したから、僕の記憶をサーヤに伝えるよ」

ヒロは父母やサーヤと離れ離れになった後から、サーヤに再会するまでの記憶を丁寧にサーヤに伝えた。

「ヒロはいつも父さん母さんやわたしを捜していたんだね。わたしは安全なところにいて、いつも父さんが見守ってくれていたから、いつかヒロに会えると信じていたよ」

サーヤが目に涙を浮かべてヒロの肩を抱いた。

 

「サーヤ、今度はわたしの忍者学校の知識を伝えるよ」

ミウは、ケンのように学校の知識以外のことまで伝えてしまうことのないように、気をつけてサーヤに伝えた。

ミウの知識を伝えてもらったサーヤが、にこにこしてミウにささやく。

「ありがとう、ミウ。わたしの頭は、忍者学校の知識でいっぱいになったよ。でも、ミウはヒロのことが気になったり、心配になったりするんだね」

「えーっ、あんなに気をつけていたのに!」

ミウは、思わずヒロの方を見た後、あわててサーヤに視線を移す。

「大丈夫だよ、ミウ。ヒロは気づいていないけど、可能性ありだと思うよ」

サーヤは笑顔のまま、落ち着いていた。

 

<第133話へ続く>

  

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<第133話    2015.8.20>

 

 「ヒロ、サーヤ、おばあちゃんから電話があって、すぐ帰っておいでって」

マリの母親が、庭に出てきてヒロとサーヤに言った。ヒロとサーヤが、サスケを連れて家に着くと、校長先生とインドのばあちゃんが談笑していた。

「おー、ヒロ、サーヤ。マリの家に行っていたそうじゃな・・・マリの体と心は順調に回復しているのかな?」

校長先生が、あごヒゲをなでながら、ヒロとサーヤに問いかけると、ヒロがインドのばあちゃんの横に座って答える。

「はい、サーヤの治癒能力でケガはすっかり治りました。でも・・・記憶がまだ完全には戻らないので、僕たちの記憶を伝えたりしているところです。ブラフマーさんに教えてもらった方法は、すごく役に立ちます」

 

「そうか、それは良かった。ところで、ヒロ・・・」

校長先生は、声を低くして話を続ける。

「わかっているだろうが、サーヤが強い治癒能力を持っていることが世間に知れると、その能力を悪用したいヤツらがサーヤを手に入れようとするだろう。だから、サーヤの治癒能力のことは、絶対、秘密にしておくのだぞ!」

「はい、絶対、秘密にしておきます。ミウやケンに・・・特にマリにも言っておきます」

ヒロが声に力を込めて、静かに約束した。

 

そこにミウ、ケン、マリが、カゲマル、コタロウ、ヒショウを連れてやって来た。

「おー、マリ、だいぶ良くなったように見えるが、気分はどうじゃ?こっちに来て座りなさい」

校長先生が、優しくマリに声をかけると、マリは天真爛漫な笑顔になって校長先生の横に座る。

「はい、ケガはもう治りました。サーヤが治してくれたそうです。サーヤ、ありがとう」

それを聞いて、ヒロがミウ、ケン、マリに向かって、サーヤの能力を秘密にするよう小さな声で注意した。

 

「そうだな、ヒロ、絶対、秘密にするよ。でも、万一サーヤが危険な目に会うといけないから、俺がサーヤのボディーガードになるよ」

ケンがヒロや校長先生の顔を見て、サーヤに視線を向けた。

「うーん・・・それは不自然じゃな。やはり、ヒロがサーヤを守るようにしなさい。ケンは、サーヤを狙う怪しいヤツが近づかないよう警戒する方が良い。ヒロ、ケン、しっかりサーヤを守ってくれよ!」

校長先生がヒロとケンの肩に手をおくと、ケンはちょっとがっかりした表情を見せた。

 

<第134話へ続く>

  

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<第134話    2015.8.28>

 

 「世界のあちこちに、暴力を振るう集団や組織があるけど、それはヤミの魂(たましい)と関係があるんですか?」

ミウが小さな声で校長先生に問いかけると、先生は周囲に怪しい者がいないことを確かめてから、ゆっくりと説明し始めた。

「ヤミの魂が、暴力的な独裁者達を作り出しているようじゃな。さらに、そんな独裁者の影響を受けた者達が暴力を振るう集団や組織を作っているとも言える。そのヤミの魂の存在に気づいたのが、ヒロとサーヤの父親シュウジじゃ。シュウジは地球の人々を守るため、ヤミの魂に戦いを挑んだが、シュウジの家族がヤミの魂に狙われることになった」

「それでヒロが奈良のおばあちゃんに、そしてサーヤがインドのおばあちゃんに預けられたのか・・・」

ケンが低い声でつぶやきながら、ヒロとサーヤを見た。

 

「サーヤの母親エミリは、竜に乗って幼いサーヤを私に預けに来たの。そして三人で少しだけ過去に戻ったわ。エミリは、サーヤと私をそこに残して、さらに古い時代に行ったの。それは、ブッダが生きていた時代よ」

インドのばあちゃんが、ほとんど聞き取れないくらい小さな声で言った。

「でも、どうして、母さんはそんな古い時代に行ったの?」

ヒロが独り言のようにつぶやくと、インドのばあちゃんがヒロの目を見つめて答えた。

「エミリは、サーヤと一緒にいるとヤミの魂に見つかりやすいと考えたの。エミリは宗教研究者だから、ブッダの時代に興味があったし、ブッダに守られて安全だと思ったのよ」

 

「ああ、母さんに会いたいなあ・・・サーヤ、母さんに会いに行こうよ!」

ヒロが、珍しく自分の気持ちをさらけ出して、サーヤの両肩をつかんだ。

「でも、ヒロ・・・どうやって、母さんの所に行けばいいの?」

サーヤは、ヒロの顔から校長先生に視線を移した。

「それは、君たちの父親、シュウジに教えてもらえばよい。安全な場所と時間を選んで、シュウジが君たちだけに教えてくれるじゃろう。あわてないで、待っておればよい」

校長先生は、特別な千里眼の能力でシュウジの様子を見ることができるようだ。

「ヒロのおばあちゃん・・・、ヒロは毎日『母さん、父さん、サーヤのいる所へ連れていって』って神様にお願いしてたでしょ?」

校長先生の横に座っていたマリが、そう言って奈良のばあちゃんの後ろに見える神棚を見た。

 

<第135話へ続く>

  

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<第135話    2015.9.5>

 

  ヒロは、マリの視線の先にある神棚を見ているうちに、千里眼の能力が勝手に高まって、遠い未来が見えたような気がした。それは、何十億年も先の未来に、太陽が膨張して人類が地球に住めなくなる時のことだ。未来の人類は、オリンポス惑星の魂(たましい)と同じような浮遊脳組織、つまり宇宙空間に浮かぶ頭脳のネットワークを造る。その地球の魂を造る場面に、ヒロの父シュウジがマリとともに現れた。シュウジは、マリの天真爛漫な心が地球の魂の中心になるようにネットワークを造り始める。

「これは、天真爛漫なマリが地球の魂の聖母になるってことじゃないか!」

思わずヒロがつぶやくと、サーヤがヒロに問いかける。

「どうしたの、ヒロ・・・何が見えるの?」

 

「ああ、知らない所にいる父さんが見えたんだ。校長先生・・・父さんは今、どこにいるんですか?」

ヒロに問いかけられた校長先生は、困ったような表情でゆっくりと答える。

「さっきも言ったろう、ヒロ。あわてずに待っていれば、シュウジが君たちに教えてくれるとな。・・・そうじゃ、忍者高校のタカハシという物理の教師を知っておるか?」

「いいえ、知りません。その物理の先生は父さんとどんな関係があるんですか?」

まだ中学一年生のヒロは、物理という言葉に強い興味を持った。

 

「うん、そうじゃな・・・タカハシ先生は、シュウジの忍者学校と京都の大学の先輩じゃ。百三十七億年の歴史を持つ宇宙の構造は複雑で、普通の人には理解できん。宇宙の始まりを研究していたシュウジは、宇宙の構造を理解できるタカハシ先生と議論するのが好きじゃった。ところで、タカハシ先生は江戸時代の偉大な天文学者タカハシヨシトキと同じ名前じゃが、何の関係もないらしい」

今度はヒロがどんな質問をしてくるか、校長先生は楽しんでいるようだ。

 

「今でもタカハシ先生は、父さんと議論しているんですか?父さんのいる場所を知っているんですか?明日、忍者高校に行ってタカハシ先生に会ってもいいですか?」

ヒロが質問すると、校長先生は笑顔になって答えた。

「もちろんじゃ。サーヤも一緒に行くとよい。あー、ミウ、ケン、マリも一緒に行きなさい。きっと、無数の星と銀河、ブラックホール、ビッグバンなど、宇宙の基礎知識を教えてくれるじゃろう。・・・・あー、そうじゃ、最近ヤミの魂が地球から遠ざかっているらしいぞ。太陽の活動が活発になって、ヤミの魂の内部が混乱するから太陽系から離れて行くんじゃ。これで数年間はヤミの魂が新たな独裁者を作り出すことはないと、タカハシ先生が言っていたぞ」

 

常に太陽の表面から紫外線やプラズマが放射されている。太陽の活動が活発になると、紫外線やプラズマが大量に放射されて、宇宙に浮かぶ頭脳のネットワークが悪影響を受ける。だから、ヤミの魂が離れて行くのだということが、ヒロには理解できた。

「校長先生、ありがとうございます。サーヤ、マリ、ミウ、ケン、明日一緒にタカハシ先生に会いに行こう!」

——— 第一章 <完> ———

 

<第136話へ続く>

  

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